高齢者の「命綱」ともいえる訪問介護。4月、経営の基盤となる基本報酬が減額となった。まさかの引き下げに、現場に衝撃が走っている。AERA 2024年4月22日号より。
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東京都江戸川区。一人暮らしの吉金(よしかね)カツ子さん(88)は、週に一度、ヘルパーが来るのを心待ちにしている。
「一人では何もできませんから。本当にありがたいです」
10年ほど前に座骨神経痛を発症した。台所に立ったり、歩いてトイレに行ったりはできるが、足が痛くて掃除は困難となった。「要支援1」の認定を受け、ヘルパーに来てもらうことにした。
5年ほど前から吉金さんのヘルパーになったのが、訪問介護事業所「東京ケア」(江戸川区)のヘルパーで、50代の藤井悦子さんだ。居間、寝室、風呂場、台所、トイレ……。約1時間かけ、隅々まできれいにしながら、時々、吉金さんの話し相手にもなる。
藤井さんはヘルパー歴12年。元々母親が介護の仕事をしていて、同じように人の役に立つ仕事をしたいと思い、ヘルパーの資格を取った。雨の日も雪の日も、多い時で1日5軒の利用者宅を自転車で回る。掃除や調理といった「生活援助」から、オムツ替えや食事介助など「身体介護」までこなし、日々奮闘する。
住み慣れた家で最期まで暮らしたい──。そんな高齢者の「命綱」ともいえるのが訪問介護だ。それが今、崩壊の危機にある。
介護現場に衝撃が走ったのは1月下旬。2024年度からの介護報酬改定で訪問介護の「基本報酬」が2%強、引き下げられることになったのだ。基本報酬は介護報酬の一つ。介護で決められたサービスを提供した事業者に支払われる対価で、経営の基盤となる。
00年に始まった介護保険制度。介護報酬は3年に1度改定され、24年度の改定では、全体の報酬改定率を1.59%増とすることが23年末に決まっていた。これを踏まえ厚生労働省は、介護サービスの種類ごとに具体的な報酬額を決めた。デイサービスなどほとんどのサービスで基本報酬は引き上げられたが、訪問介護だけマイナスとなった。