有効求人倍率15.53倍、最たる原因は低賃金
「物価高や国会では多くの企業で賃上げと言っていて、まさかマイナスの改定はないだろうと思っていたので、ショックでした」
こう話すのは、東京ケアの滝口恭子所長。同事業所は03年の設立。現在18人の登録ヘルパーと、7人のサービス提供責任者が在籍する中規模事業所だ。ヘルパーの平均年齢は50代後半で、最高齢は76歳。大半が10年以上続けている人たちだ。もっと若い人材を入れようと新聞折り込みなどで募集のチラシを入れても、問い合わせすらないという。
「介護の仕事はそもそも賃金が安く、しかもイメージがよくありません。そこに、訪問介護の基本報酬がマイナスになったことで、福利厚生が悪化するなど職場環境が悪くなるのではないかというイメージがついて、さらに若い人材が集まらなくなります」(滝口所長)
言うまでもなく、訪問介護の最大の問題はヘルパー不足にある。ヘルパーの有効求人倍率(22年度)は15.53倍と、全産業平均(1.31倍)を大きく上回る。その最たる原因は、低賃金にある。介護職の平均月収は約29万円で、全産業より約7万円安い。若い世代が入らず60代、70代のヘルパーが現場を支える。東京商工リサーチの調べでは、人手不足や光熱費など物価高の影響で、23年の訪問介護事業者の倒産件数は67件と、調査を始めた00年以降、最多を更新した。
なぜ、このような状況で基本報酬を減額したのか。施設から在宅へと、国は在宅を軸とした地域包括ケアシステムを推進してきた。厚労省が根拠としたのが、同省が介護事業者の経営状況を把握するため3年に1度行う「介護事業経営実態調査」だ。22年度の介護サービスの「収支差率(利益率)」は、全平均が過去最低の2.4%だったのに比べ、訪問介護は7.8%と高いことを引き下げの理由とした。同省は「収支差率の全体を眺め、調整した」と説明した。