井下田:初めての営業同行は今もよく覚えています。当時の私は40歳くらいで、1つ年下の営業と2人でお客様を訪問しました。会社が肝入りで開発したソフトはもうコケていましたから、まだプロトタイプ(試作品)段階のソフトを持参して、それでデモンストレーションをやりました。簡単に言えばデータのフォーマットを変換するためのソフトだったんですが、このとき、お客さんが、自社のデータについて、『これを圧縮できない?』と質問してきたんです。データの圧縮なんて、今は簡単にできますが、当時はなかなか難しかったのですね。質問された私は、そこでハッタリをかましました。
西沢:ハッタリ? いったいどんな?
井下田:「はい、もちろんできます!』って即答しました。本当は、その時点ではできなかったのですが、そこで即答しないと、選んでもらえないと思ったんです。
西沢:イチかバチかのハッタリ。
井下田:もちろん、私はエンジニアですから、「この程度の機能はすぐに開発できるな」と思いましたし、ウチのような小さな会社なら、大企業と違って、社内決済も何もすっとばして、すぐに開発に着手できるなと……そういう、2つの勝算はありました。ですから、ハッタリというよりは、その場しのぎでしょうか。事実、会社に戻って速攻で圧縮機能を開発して、翌日にはお客様に報告し、受注につながりました。これは、今にして思うと、今回の本の中に書いた4つの戦略の中の「帳尻合わせ戦略」ですね。
西沢:自分がエンジニアであり、会社がベンチャーで小回りが利いたという利点を生かしての勝利だったんですね。素晴らしいです。私も、編集者さんから「◯月◯月までに入稿できますか?」と聞かれたときは「楽勝です!」ってハッタリをかましています。もちろん宣言の通り締め切りはちゃんと守りますけど。