杉村達也はこれまでの人生、多くのゲームに触れてきた。「将棋はアマチュアの初段か二段ぐらいです。麻雀はМリーグも見ますが、自分で打つことが多いですね」(撮影/写真映像部・高野楓菜)

 2010年代。棋士とコンピュータが公開の場で勝負する「将棋電王戦」が社会的に大きな注目を集めた。杉村が弁護士登録をした14年。磯崎が開発した「やねうら王」も棋士に勝った。

「電王戦はずっとニュースで見ていました。17年に人間界トップの名人が敗れ、電王戦も終わった。私が開発を始めたのはそのあとぐらいです」

 コンピュータ将棋界では、これまでの研究開発の多くが公開される文化が確立されていた。新参の杉村は先人の肩に乗りながら、自身でも新工夫を重ね「水匠」を開発。20年5月の世界コンピュータ将棋オンライン大会で優勝した。

「その年2月に発売されたAMDの高性能CPU『Ryzen Threadripper 3990X』が優勝の原動力です。そこでいち早くそのパーツに着目された棋士が藤井聡太先生(当時七段、現八冠)で、自作PCに組み込み、研究に使って大きな成果をあげられた。22年、AMD社は藤井先生のスポンサーになり、また現在は、やねうら王にもパーツなどをご提供いただいています」

 将棋AI開発という、デジタル分野の最前線に立つ杉村。しかし21年11月の電竜戦では、思わぬアナログなアクシデントに見舞われた。

「水匠を動かそうとしたら『サーバーとの通信ができません』という表示が出て」

 休日の土曜日の朝。リモートで稼働させている高性能マシンは、自身が所属する法律事務所に置いてある。

「あわてて電話をしたら、掃除をしてくれるパートの方から『掃除機かけるんで、コンセントを抜いちゃいました』と。リーグ1回戦は不戦敗になりました」

(構成/ライター・松本博文)

AERA 2024年4月8日号

著者プロフィールを見る
松本博文

松本博文

フリーの将棋ライター。東京大学将棋部OB。主な著書に『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

松本博文の記事一覧はこちら