AERA 2024年4月8日号より

高校時代からの因縁も

 そのインターハイ準決勝で、尊富士に勝ったのが狼雅(ろうが)。尊富士とは同じ鳥取城北高校の同学年で、決勝で豊昇龍にも勝って高校横綱に輝いた。同じ大会で3位だったのが北の若。1学年下で当時は2年で、翌年のインターハイを制して高校横綱になっている。どちらも高校時代の実績では尊富士より上。豊昇龍と同じく大学には進まずに大相撲入りし、そろって昨年九州場所で新入幕を果たした。負け越して十両に戻っていた今年初場所、新十両だったのが尊富士。13勝2敗で十両優勝し、1場所で新入幕を果たすのだが、この2敗をつけたのが狼雅と北の若なのだ。しかし、3人そろって幕内で迎えた春場所、尊富士は狼雅とは対戦があり勝利。狼雅も北の若も負け越した一方で新入幕優勝と、一気に追い抜いた。

「アマ横綱」「学生横綱」の大の里、「高校横綱」「実業団横綱」の伯桜鵬。「高校横綱」の狼雅と北の若。大相撲で横綱に次ぐ地位である大関の豊昇龍。実績も注目度も上だったライバルたちが、尊富士の快挙に刺激を受けてどんな相撲を見せてくれるのか、注目だ。

 そんな大相撲新時代に向けた争いに大きく影響しそうなのが、元横綱白鵬の宮城野部屋で起きた暴力問題だ。幕内北青鵬(ほくせいほう、引退)が部屋の力士への悪質な暴行を1年以上繰り返していた。過去に同様の事件が続いて暴力決別宣言をし、暴力根絶に向けた努力を続けていた日本相撲協会は、元白鵬の宮城野親方の師匠としての自覚欠如を問題視。宮城野部屋は所属する伊勢ケ浜一門で預かることとなり、同一門で今後の方針を協議していた。その結果、元横綱旭富士の伊勢ケ浜部屋に力士や親方が転籍することに決まったのだ。

オープンカーに乗ってパレードに出発する尊富士、左は錦富士=2024年3月24日

二つの部屋の化学反応

 伊勢ケ浜部屋は、尊富士のほか熱海富士ら有望力士が多い。宮城野部屋には伯桜鵬のほか、尊富士の日大同学年で学生横綱に輝き、幕下15枚目格付け出しで初土俵を踏んだ輝鵬(きほう)ら、白鵬を慕って入門した有望力士がひしめく。今回の措置は一時的なもので、将来的には元白鵬の宮城野部屋の再興を見据えているが、一時的とはいえ、二つの部屋の有望力士たちが同じ部屋で稽古するのだから、激しい化学反応が生まれることは必至だ。

 二つの部屋が一つになることは、他の部屋の力士にとっては脅威だ。注目は、大の里のいる二所ノ関部屋。十両白(しろくま)のほか、幕下以下にも有望力士が多い。師匠は元横綱稀勢の里。照ノ富士や白鵬とは現役時代にしのぎをけずった。かつてのライバルが指導する弟子たちが火花を散らし、どんな大相撲新時代が到来するのか。興味は尽きない。(相撲ライター・十枝慶二)

AERA 2024年4月8日号より抜粋

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