「ラーメンは魔物です。作り始めてわずか2カ月で、私もどんどんホモソーシャルでマッチョな人間になっていきました。店主が得意になるのもわかるんです。私は今まで七面鳥とか5日間かけたシチューとかいろいろ作ってきたけど、最も喜ばれたのがラーメンなんですよ。ほめられていい気持ちになりました」
ラーメン修業の成果は小説の描写に生かされただけではなかった。今まではエンターテインメント小説でパワハラやセクハラをする悪役を書くとき、やっつけてスカッとして終わりにしていた。
「それが自分にも悪役の要素があるのではないかと思うようになり、悪役の解像度が上がったんです。今までは女の人同士とか、おいしいスコーンがあるような好きな世界を楽しく書いてきたけど、これからは嫌いなものにも飛び込んで解像度を上げていきたいと強く思いました」
そんなわけで、今やってみたいのはゴルフ、行ってみたいのは政治家の裏金パーティーだ。
「小説家というなりわいがあることで、いろんなことにチャレンジできる。40代にして、はちゃめちゃな毎日が始まりそうな予感がしています」
(ライター・仲宇佐ゆり)
※AERA 2024年4月8日号