柚木麻子(ゆずき・あさこ)/1981年、東京都生まれ。2008年「フォーゲットミー、ノットブルー」でオール讀物新人賞、15年『ナイルパーチの女子会』で山本周五郎賞。その他の作品に『ランチのアッコちゃん』『BUTTER』『らんたん』『オール・ノット』など(撮影/写真映像部・和仁貢介)
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 AERAで連載中の「この人のこの本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。

『あいにくあんたのためじゃない』は炎上中のラーメン評論家、コロナ禍で外出できない人など苦境にある人々をめぐる6編の短編小説を収録。女性が入りにくいラーメン店の逆を行く店が登場する「めんや 評論家おことわり」、マンションの住人が連携して復讐を果たす「パティオ8」、年配女性が営む店の謎に迫る「商店街マダムショップは何故潰れないのか?」など。著者の柚木麻子さんに同書にかける思いを聞いた。

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 あいにくあんたのためじゃない。いきなりファイティングポーズで迎えられるような威勢のいいタイトルは、モーニング娘。'23「Wake−up Call〜目覚めるとき〜」の歌詞から取られている。

「普段からハロー!プロジェクトの曲をめちゃくちゃ聴いてるんです。アイドルは体形やメイクについて世間の人にいろいろ言われるけど、そういうことに対して、このフレーズはすごくいいなと思って」

 と柚木麻子さん(42)。収録された六つの短編小説は痛快な話から心温まる話までさまざまだが、タイトル通り、自分主導で行けばいいと背中を押してくれる。

 この数年の世相が見えるのも面白い。コロナ禍で外出できなかったとき、ベランダの下まで友人が来てくれたこと、リモート勤務の人がマンションで起こした事件、商店街の謎の店に入ってみたことなど、自分が見聞きしたことが反映されている。

 1編目の「めんや 評論家おことわり」はラーメン店でのセクハラや盗撮が話題になった時期に書かれた作品だ。

「ラーメン好きの男性がなぜホモソーシャル的になりがちなのか、なぜ腕組みして威張った感じの店主がいるのかを知るために、自分で一からラーメンを作ってみることにしたんです」

 巨大な寸胴鍋を購入し、専門書を何冊も読み、映画「タンポポ」を100回くらい見て、手を腫らしながら麺を切る練習をし、有名店を食べ歩いた。そうして作ったラーメンを友人たちにふるまうと大喜びしてくれた。子連れは嫌がられそうだし、スープを飲み干せないし、残したら怒られそうだから、みんなラーメン店に行けなかったのだ。

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