写真はイメージです(Getty Images)

 なぜ、「補助的手段」でしかないのか。 

 木村さんによると、肥満の人には、特有の「認知のゆがみ」があるのだという。 

 受診に来た患者のほぼ全員が、明らかに食べ過ぎているのに、「そんなに食べていません」と答えるのだ。 

「体重が100キロを超えるような患者さんでもそうです。ごまかしているのではなく、本心から『食べていない』と思っているから、そう答えるのです。それが『認知のゆがみ』の正体です」 

 なかには「水を飲んで太っただけ」と本気で話した患者もいたという。 

 食べていないと信じ切っている人に、食生活改善の必要性や運動する大切さを諭しても心にはまったく響かない。そもそもかみ合うことがない。 

 必要なのは患者自身が問題を認知する「気づき」なのだという。栄養士が手助けするなどし、「気づき」の瞬間にたどり着けるよう少しずつ前に進んでいく。そこに到達しない患者は「食べていない」の認知のままゆえ、リバウンドを起こしやすい。 

「アライの服用が、『気づき』のきっかけにつながるのではないか」 

 木村さんはそんな別の“効果”を期待する。 

アライは、あくまで補助的手段

 副作用の下痢や便漏れ、油漏れのリスクを軽減するには、摂取する油の量を減らすことが重要になる。 

「副作用が起きないようにするため、例えばから揚げの個数を減らすとか、脂っこいメニューは避けるようになる。そのうえで購入の条件である運動もすれば、ちゃんと痩せるでしょう。『痩せた!』と成果を実感できたそのとき、自分が続けてきた食事などの生活習慣に問題があったという『気づき』が生まれるのではないでしょうか」 

 木村さんの患者も、半年たって減量に成功したころになってやっと、「昔はめちゃくちゃ食べてました」と認めるようになるそうだ。 

 木村さんは、アライを服用するなら、ダイエット用のアプリなどを活用して体重の変化を記録することが望ましいと話す。 

 また、周囲や医療側がメンタル面をサポートすることも非常に重要だと訴える。 

 やせることは大変だ。「よくがんばったね」「よくできましたね」と褒め言葉をかけて達成感をサポートしてあげることが大切になる。 

「アライは、あくまで補助的手段」 

 木村さんは重ねて指摘し、服用を考える人にこう言葉を送る。 

「一気に痩せようと思わないことが大切です。体重80キロの方なら1カ月で2キロ減くらいがのぞましいと思います。少しずつ、前に進んでいってください」

(國府田英之)

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國府田英之

國府田英之

1976年生まれ。全国紙の記者を経て2010年からフリーランスに。週刊誌記者やポータルサイトのニュースデスクなどを転々とする。家族の介護で離職し、しばらく無職で過ごしたのち20年秋からAERAdot.記者に。テーマは「社会」。どんなできごとも社会です。

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