長尾氏が指摘するのは、およそ40年周期で起きている地震だ。
千葉県東方沖では1987年に最大震度5(M6.7)の大きな地震が起きている。この地震では死者2人、負傷者161人、住家は全壊16棟に半壊102棟、一部破損が7万2580棟という大きな被害が出た。
この地震から37年前にあたる1950年に最大震度4(M6.3)、さらに38年前の1912年にもM6.2の地震が起きている。37~38年に1度、地震が起きていることがわかる。
そして、今年がちょうど前回の地震から37年というタイミングにあたる。過去の事例をふまえれば、千葉県東方沖では今後、M6.5前後の地震が起こるおそれがあるということになる。
M6以上の地震が起きれば、房総半島の震源近くでは震度6弱から6強、東京都内でも震度5強ほどの揺れが襲う可能性がある。
国が言及できないリスク
なぜ政府の地震調査委員会は、今回の地震活動について警鐘を鳴らさないのか。長尾氏はこう説明する。
スロースリップは、地面の揺れとして観測できないほど、ゆっくりとした動きのため、どれぐらい動いたかはGPSのデータを分析して計測する必要がある。
「GPSを使った地殻変動の観測は1995年の阪神・淡路大震災後に始まっており、1987年以前の地震でスロースリップが関係していたか、わかっていません。そのため、地震調査委員会はスロースリップと大地震の関連性とリスクについて、言及できないのだと思います」
では、なぜ今回の5~6年周期の地震と40年周期の地震が関係していると言えるのか。
「地殻変動のメカニズムは数十年程度で大きく変わるものではありません。となると、以前から短期的には5~6年の周期でスロースリップが起きており、長期的には37~38年の周期で大きな地震が起きてきたとも考えることができます。つまり、スロースリップが6~8回発生するとM6.5前後の地震が起きていた可能性がある、ということです。地震学者としてこのリスクは看過できません」(長尾氏)