「早く診察してほしくて呼ぶ」「発熱したもののどこの病院に行けばいいかわからず呼ぶ」など、救急車の「不適正利用」は後を絶たない(写真:Getty Images)

 三重県松阪市内の3病院が6月から、入院不要の救急搬送者に対して7700円を徴収する。救急搬送者の半数近くは入院不要の軽症者。「有料化」には不適正利用を減らす狙いがある。AERA 2024年4月1日号より。

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 救急車を呼んでも入院に至らなかった場合、7700円を徴収します──。

 救急医療を担う三重県松阪市内の3基幹病院が6月1日から、救急搬送されたうち入院に至らなかった軽症患者から保険適用外の「選定療養費」として一人(件)につき7700円(税込み)を徴収する。救急車を安易に利用する「コンビニ受診」を減らす目的だという。

「ついに救急車が有料に?」。そんな声も含めて大きな話題になったが、松阪市健康福祉部健康づくり課の担当者は「今回の取り組みは救急車の有料化ではありません」とくぎを刺す。

2016年の健康保険法改正とその後の見直しで、200床以上の地域医療支援病院は医療体制維持のため、他の医療機関からの紹介状を持たない初診患者から選定療養費として7千円以上を徴収することが義務付けられている。今回はその範囲を救急車利用にまで広げた形だ。

AERA 2024年4月1日号より

半数近くが入院不要

背景には救急車利用件数の増加がある。総務省消防庁の2023年版「救急・救助の現況」によると、救急車による出動件数と搬送人数は年々増え、22年には過去最多を記録。うち半数近くは入院不要の軽症者だった。松阪市でも同様に年々増加し、23年の松阪地区での出動件数は1万6180件と過去最多を記録。同市は「このままでは(中等症患者など)助かるはずの命が助からない」と危機感を募らせる。

「松阪地区の救急医療を守るために行うものであり、ひいては救急車の適正利用につながっていくと考えています」(担当者)

 この方針を、現場はどう考えるか。東京消防庁などで救急救命士歴19年、現在は病院救命士の男性は「素晴らしい判断だ」として将来の有料化も期待する。

「まだ正確には『有料化』ではないものの、先陣を切った松阪市の事例が報道されたことで、安易に救急車を呼ぶ方たちへの牽制(けんせい)になると思います」

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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