「無理難題を押し付けられることもあるけど、マニュアルがない中でどうやって作るかを考えたり、工夫したりするのが私には合っている。結局最後は楽しんでいます」
舞台では着た時に美しく見えることは大切だが、動きやすさも求められる。演出の意図や話の内容、振り付けなど全体をくまなく理解した上で型紙を作り、生地を選ぶ。
「演者一人一人を輝かせ、最高の舞台を作り上げるために、演出家や振付師、デザイナーとの議論は欠かせません。時には意見がぶつかることもあるけど、目指すところは一緒だから頑張れちゃう」
作品によって仕上げる衣裳の点数は異なるが、バレエでは一つの作品で少なくとも100点は作る。バレエにしてもオペラにしても、いくつかの作品の衣裳を同時に製作することがほとんどだ。
「忙しいけど、一度もやめたいと思ったことがない。走り続けて考える暇がなかったのかも」
一緒に働く後進が育ってきたこともあり、そろそろ引退も考えているが、まだ周りが許してくれそうにない。(ライター・浴野朝香)
※AERA 2024年4月1日号