全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2024年4月1日号には工房いーち 代表取締役会長 林なつ子さんが登場した。
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新国立劇場や日生劇場といった大舞台で、バレエやオペラの演者が身にまとう衣裳(いしょう)を作り続けている。半世紀以上にわたる功績が認められ、昨年、舞台を支える人たちに贈られる「ニッセイ・バックステージ賞」(ニッセイ文化振興財団主催)を受賞した。
「衣裳がどんなに素晴らしくても、それだけでは優れた舞台にはなりません。舞台は総合芸術だからです。賞をいただけたのは、演出や音楽、美術など舞台に関係するすべての人たちのおかげです」
洋裁を学んでいた短大時代、たまたま見たバレエの公演できらびやかな衣裳に魅了された。卒業後、舞台衣裳を作る会社に入ったものの、当時は先輩や同僚も少なく、腕を磨く環境が整っていなかった。
舞台の裏側に入って本格的に技能を身につけたいと、つてを求めて舞台関係者に直談判。積極性が評価され、衣裳作りを任された。
初めて担当したのは、モーツァルトのオペラ「魔笛」。衣裳にかけられる予算は少なく、手本となる型紙もなかった。それならばと古い毛布を仕入れ、手探りでローブを作り上げた。以降、舞台衣裳製作を手がける数少ない存在として実績を積み上げてきた。