
富士櫻は泥まみれで稽古していたし、それを見て感銘を受ける力士もいる。俺は斜に構えてたから「あんなに泥んこになって。誰だってそれだけやれば強くなるよ」って見てたけど(苦笑)、だから番付は前頭まで。泥まみれになって、誰とでも稽古していた人はみんな上に行ったね。
印象的なのは富士櫻、北瀬海、栃ノ海さん、栃光さん。みんな相応の地位まで行ったよね。大鵬さんだって、あんなに体が大きいから強いのは当たり前だと言われるけど、あれだけ稽古しているのを見たら誰だって納得するよ。稽古しない奴はそこそこにしかならないし、稽古は嘘をつかない。たった一人、稽古をしないで上に行ったのは龍虎関ただ一人だ。
龍虎さんはちゃんこつまみ食い
龍虎さんは俺たち相撲取りの話題にもよく上がった人で、下っ端のときはよその部屋に出稽古に行くと、ちゃんこのつまみ食いばっかりしてて、全然稽古しないって有名だったよ。それでも三役に上がったときは、すごい人だなと思ったもんだ。
それからよく話題に上がったのが輪島さんだ。「リンカーン・コンチネンタルに乗って、いいスポンサーを見つけた」とか、とにかくスポンサーや金の話だったね。大きなスポンサーはすぐ噂になるよ。
輪島さんの後援会のパーティーで、あるタニマチが「優勝おめでとう」と小切手を渡して、輪島さんも10万円くらいだと思って「ごっちゃんです」って受け取ったんだって。で、パーティーが終わった後に改めて小切手を見たらすごい金額で、慌ててそのスポンサーに最敬礼でお礼に行ったという話も当時は相撲取りの間で話題になったよ。
当時の俺や金剛も、大鵬さんや輪島さんのそういう話を聞いていて、血眼でそういうスポンサーいないかって、鵜の目鷹の目で探すんだ。13、14歳のガキが相撲の世界に入って、百万円単位のご祝儀を目の当たりにするんだから、田舎の生活感がガラガラと崩れたっておかしくないだろう。すべて、ごっちゃん、ごっちゃんでご祝儀が入るんだから。
プロレスに転向してからしばらくの間、俺の話し相手といえばもっぱら(ザ・グレート・)カブキさんだ。俺より先にプロレスに転向したロッキー羽田はすっかりプロレスラーとして完成されていて「あの花籠部屋の羽田光男があんなにうまくなっているのに、俺はうまくならない……」って悩んでいるときにカブキさんは親身になって話を聞いてくれた。