家事には非常に複雑な要素が詰まっています。それはこちらの本(『家事は大変って気づきましたか?』/亜紀書房)で書いたのですが、例えば、「献立」と「買い物」は、私が思い付くだけでそれぞれ7つの要素で構成されているんですよね。そんな複雑なことを毎日、世の中の人たちはやっているんです。
私が研究している食文化史のジャンルは、積み重ねがないと仕事をもらいにくいところもあって、積み重ねている間は大変でした。結果、自分はあまり働いていないという気持ちになって、苦しかった。ただそんな時にでも、ごはんは作っていて。それが、すごく自信になったんですね。
30~40代は、みんなみたいにバリバリ働いてはいなかったけれど、少なくとも暮らしを紡いできた、と思えた。よく、「おばちゃんは強い」なんて言われますが、家の中を整えて、子どもを育てたということが、その人たちの自信になっているからだと思います。それは会社員が定年退職したらあれ?となるのとは違う、決して消えないキャリアなんです。
何かあったときにサバイブする技術も、実は家事のスキルなんですよ。地震をはじめとする災害もそうですし、病気やけがなど、人生に起こるトラブルを乗り越えるには、ベーシックなスキルが身に付いてないといけない。完全に人任せにしている人よりは、自分でやっている人、あるいはやることができる人のほうがタフだと思います。
それに、住まいは自分の延長線上にあるわけなので、その延長線上の部分がきれいだったり快適だったりすると、やっぱりそれは心地いいですよね。家が安心できる場所だと、外でつらいことがあっても「家に帰ればいい」「家には好きな場所がある」と思えます。
――なるほど。確かにそうですね。『家事は大変って気づきましたか?』にもありましたが、料理を作るにしても部屋を片付けるにしても、決めなきゃいけないんですよね。献立もそうですけれど、食材を決める、調理方法を決める、調理してる時はいつお醤油を入れるのか決めるなど、家事は決断の連続です。だから疲れるんですけど、仕上げれば目に見えるので達成感がある。片付けも洗濯も、やったら目に見えるかたちになるのが、家事のいいところですね。
本当にそうです。だからストレスフルな仕事をしてる人ほど家事を楽しんだりするんですよね、気分転換って言って。みなさんもご経験があるんじゃないかと思うんですけれど、仕事が上手くいかない時期は必ずあります。でも、家事は1時間でも手を動かせば成果が出る。