子育てにしたって、何十年も経たないと「ありがとう」なんて言ってもらえないし、そもそも言ってくれないことだってあるけれど、家事なら、小さな達成感を積み重ねることができるんです。これはストレスフルな人生の中で、癒しの部分も実はありそうですよね。
――確かに、仕事が大変で忙しい時ほど、千切りみたいな作業が、頭が空っぽになって楽しかったりしますね。
ですね。そして千切りの成果は、自分のものですもんね。食べられるんですから。こういう、自己完結する喜びを持てるかどうかも、実はひとり暮らしでは大事なところです。家族がいる人たちに向けて話す時は、家族に何かしてもらったらちゃんとありがとうと言いましょう、と話すんですけど、ひとりの場合はありがとうは言ってもらえないし、おいしそうに食べてくれる人もいない。自分がしたことに自分で満足することこそが、自立ですよね。
――意外と、自己完結できることって少ないんですよね。仕事なんか全く自己完結できないですし。社会人になって自分だけで完結できることって、家事ぐらいしかないかもしれませんね。
整っていくことの良さはありますよね。親御さんが立派に家事をこなしてる人のほうが、実はひとり暮らしや結婚生活がしんどいと聞くのは、親御さんの家事レベルになかなか到達できない自分がいると思ってしまうからですよね。
――「ねばならない」から脱却することが、家事を楽しむコツ、ということでしょうか。
そうです。そこから始めなくてはいけない人が多いんですよね。家事を負担に感じている人に話を聞くと、頭の中に「理想の主婦」がいて、自分がその人に負けていることがつらい、ということが本当に多いです。メディアなどの刷り込みもあって、「できない私がいけないんだ」となってしまう。
いまは「イクメン」がもてはやされたりするから、女性だけではなく男性も、むちゃくちゃ疲れているのに家事や育児をして、ヘトヘトになって倒れる、ということも起こりがちです。整っていたほうがいいけれど、整える前にやらなきゃいけないことがあるんです。休んだり遊んだり、気分転換や人に打ち明けたりすることを優先していいんですよね。