仕事の経験が生き、受験を機に、親子の絆が強まったエピソードもある。埼玉県内に住む女性(51)の息子が本気で受験勉強を始めたのは入試の半年前と出遅れたが、猛勉強で模試では志望する難関大のB判定までこぎつけた。

 だが試験当日、息子は「やらかした」と笑いながら帰宅。夕食を食べながら、息子の笑顔はいつしか引きつり笑いになり、気づけば必死で涙をこらえていた。女性は、そんな息子を前に、どう反応しようか悩んだ。

 これまでは怒っても仕方ないと分かってはいながら、息子に散々怒鳴ってきた。だが自分で失敗を悟り、悔やみきれない渦中にいる相手に対し、頭ごなしに叱ったとして、良い方向に進むとは限らないのは、仕事を通じても実感してきたことだ。

 とっさに口をついて出たのは、「大丈夫、これで終わりじゃないから。また次があるよ」。後に、息子から「あの言葉で救われた」とお礼を言われた言葉だ。

「どれだけ不安で頭がいっぱいでも、受験で親ができることは本当に限られている。あの時、ぐっと感情をのみ込んで、息子に“大丈夫”と言えた時が、私にとって受験の最大のハイライトだった」

 子どもの大学受験の主役は、あくまでも“子ども”。親は働きながら見守るぐらいがちょうどいいようだ。無理がないバランスを探りながら、主役を支える“名脇役”を務めたいものだ。

(フリーランス記者 松岡かすみ)

※AERA2024年3月18日号