この10年あまりで大きく変化している大学受験。親の時代の受験とは様変わりしている (立体イラスト/kucci 撮影/写真映像部・佐藤創紀)

 子どもだけでなく、親も神経をすり減らし、高額なお金も投入する大学受験。 働く親は子どもをどう見守り支えたらいいのか。実際のエピソードを元に探った。AERA2024年3月18日より。

【写真】子育てアドバイザーの藤田敦子さん(中央)と医学部現役合格を果たした息子2人

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「ストレスがかかっているのは受験生だけじゃない。むしろ親の方がストレスがかかっている場合もあると思う」

 ため息交じりにこう話すのは、都内のコンサルティング会社で働く女性(53)。同業の夫とフルタイムで共働きしている。高3の息子は、週に3日、塾に通い、それ以外の日は自宅で自習している。しかし勉強に取り掛かるまでに、時間がかかる。

 勉強中だと思って夜食を持って部屋に入ったら、スマホのゲームに熱中していたのも一度や二度ではない。「さっさと勉強しなさい!」と言いたい気持ちをぐっとこらえ、優しめに言葉を投げかけるも、反抗期でもある息子からは「うるせえ」とにべもない返事。あるいは、ほとんど無視。夫に助けを求めるも、「親があんまり口出しするのは良くない」「落ちて挫折を味わうのも、また経験」と、どこか達観したような答えが返ってくる。

本音話せる相手いない

 夫のスタンスは、中学受験の苦い経験にも起因している。親子ともに必死で臨んだのに不合格だったとき、しばらくうなだれていた小6の息子の姿が忘れられない。「親主導で受験をして、無理をさせてしまったのでは」という引け目があり、「大学受験は本人のやりたいようにやらせよう」と夫婦で話し合っていた。子どもの中高時代は、女性も仕事が忙しく、テスト結果には目を通すも、そこまで子どもの勉強にコミットしてこなかった。

 だが、勉強しない息子を前に、胃がキリキリしてしまう自分がいる。中学受験に失敗しているせいか、不眠症になり、寝ても合格発表の夢を見る。慢性的な寝不足で、仕事もスランプ。やる気のない息子の様子に、自分もやる気がなくなって会社を休んだ時もあった。

「静かで落ち着ける外の環境で勉強したい」と言い出した息子に付き合って、夜間や休日に長時間、コワーキングスペースに通ったことも。正月休みにも、勉強する息子を見守りながら、仕事をしたり家計簿をつけたりして、1日14時間超を過ごした。

「子どももピリピリしていたので、なるべく明るく笑顔で接するように気をつけていましたが、更年期の身体は正直に悲鳴をあげていました(笑)。気持ちも乱高下を繰り返し、入試が近づくと口内炎がたくさんできて、柔らかいものしか食べられなくなったり……。先日、合格がわかった途端、気が抜けて、家事も仕事も手につかない状態に。その夜、高熱が出て、いかに受験が重荷になっていたのか思い知りました」(女性)

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松岡かすみ

松岡かすみ

松岡かすみ(まつおか・かすみ) 1986年、高知県生まれ。同志社大学文学部卒業。PR会社、宣伝会議を経て、2015年より「週刊朝日」編集部記者。2021年からフリーランス記者として、雑誌や書籍、ウェブメディアなどの分野で活動。

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