住宅街を車でぐるぐると

 開店直後の店内には他にお客さんはいませんでしたが、ここでは「相当ゆっくり」過ごさなければなりません。いつ電話が来ても良いようにスマホを横に置いたままゆっくりゆっくり食べ進め、満腹になったらボーッとしながらスマホを見てまた食べ始め……を繰り返し、何とか1時間半がたちました。これ以上は迷惑だと思い、もう何も食べられない状態でしたが並びのファミレスに入りドリンクをオーダーしました。店内は昼食時でかなり混雑しており、食事もせずにひとりで長居をするのは躊躇(ちゅうちょ)する状況だったため、数十分で店を出ました。

 この時点で午後1時。あと1時間どう時間をつぶそうかと迷い、仕方なく事業所近くの住宅街を車でぐるぐると何周もして走り続けることにしました。この日の待機時間を使ってどこかでこのコラムの執筆ができるかもと思いパソコンを持参していましたが、仕事ができる環境ではありませんでした。結局、長女の身体には何も起きず、迎えにいくとご機嫌に午後の活動に参加していました。無事で良かったと思いたいところですが、ほぼ1日何もできずに時間つぶしをしなければならなかったむなしさが少しだけ残りました。

パートでも働けない

 ただ、長女の付き添いはレアな場面だけであり、日ごろの登校時は主治医が出してくれた指示書を元に緊急時は校内にいる看護師さんが対応してくれることになっています。でも、「登校=付き添い」が当然になっている親子も多く、付き添い期間中、保護者はこの日の私のように時間をつぶす策を毎日考えなければなりません。外に出られればまだ良いですが、1日学校の図書館で待機しなければならないケースもあります。学校からの付き添い要請は、仕事があろうと下に子どもがいようと(感染症以外の)体調不良であっても変わることはなく、かなり長期間続くのが一般的です。付き添い免除になるためには巡回診療と呼ばれる学校医の許可が必要になるケースが多いのですが、子どもの体調不良でその日に受けられないと次の巡回診療日まで待たなくてはなりません。ひどい時には入院後にケアの内容が変わるとまたイチからやり直し…というケースもあります。私が経験したたった1日待機の後のむなしさとはきっと比べものになりませんね。この現状は、誰がどうすれば、またはどんな環境が実現すれば解決するのでしょうか?

 現在、医療や福祉の現場では多職種によるチーム連携が主流となっています。それぞれの専門職が力を出し合うことで大きなパワーになることが分かっているからです。特別支援の現場でもこうした連携が少しずつ進みつつありますが、保護者が就労する環境には程遠いのが現状です。実際、長女が実習に行った事業所は午前10時30分から午後3時30分までの通所であり、送迎時間を考えるとパートであっても働くのは困難です。学校や事業所の受け入れ環境が整わないのは、マンパワーや送迎車などの資源不足によることがほとんどです。2021年に施行された医療的ケア児支援法(医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律)は立法の目的のひとつに「家族の離職防止」を掲げていますが、学校の付き添いのために就労継続や復職できないケースはまだまだあります。ぜひ、マクロレベルでの検討をお願いしたいです。

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江利川ちひろ

江利川ちひろ

江利川ちひろ(えりかわ・ちひろ)/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ。

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