特別支援学校に通う長女の担任の先生が写真をアニメにするアプリで作成してくれたものです。先生は長女の個性を最大限引き出してくださる大切な存在ですが、医療的ケア児の付き添い問題は先生のせいではなく、慣例によるものが多い印象です(提供/江利川ちひろ)

「インクルーシブ」「インクルージョン」という言葉を知っていますか? 障害や多様性を排除するのではなく、「共生していく」という意味です。自身も障害のある子どもを持ち、滞在先のハワイでインクルーシブ教育に出合った江利川ちひろさんが、インクルーシブ教育の大切さや日本での課題を伝えます。

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 3月になりました。17歳の双子の姉妹は高3を目前に卒業後の進路を本格的に考える時期に入りました。このコラムでも何度か書いていますが、健常の次女はともかく、医療的ケア児の長女の受け入れ先の確保にかなり苦戦している状況が続いています。

「すぐ近くで待機してほしい」

 そんな中、2月半ばに長女が通う特別支援学校の高等部の2年生を対象に「実習」と呼ばれる事業所体験がありました。一般の大学でいう“オープンキャンパス”のようなもので、担任の先生と一緒に1日事業所で過ごす取り組みです。本来は保護者の付き添いは必要ないのですが、長女は酸素ボンベを携帯しているため、学校から「すぐ近くで待機してほしい」と言われました。事業所にも看護師さんはいるのですが、契約前は医療行為はできないとのことです。結果的には呼ばれることもなく長女は楽しく過ごしたようですが、学校の付き添い問題はなかなか解決しませんね。

 今回は障害がある子どもの保護者の付き添いについて書いてみようと思います。

いつ電話がきてもいいように

 長女の実習当日、朝10時30分に事業所に長女を送り届けた後、お迎えの午後2時まで何をして過ごそうかと考えました。長女の日中の医療的ケア(酸素吸入)は「けいれん発作が起きた時」または「眠ってしまった時」のみ必要であり、胃ろうからの注入やたんの吸引のようにある程度時間が決まっているものではありません。17歳になった今は日中眠ることはまず無いので、けいれん発作時のみ……と考えると、発作のコントロールができている現状では呼ばれる可能性はほぼありません。それでも「万が一の時のため」の待機なので、少なくても5分以内に到着できる場所にいなければなりません。事業所はのどかな住宅街にあり、車で数分の国道に出るまでお店はありません。一番の近くのファミレスに行こうと思いましたが、もしオーダーしたものが運ばれてくる前に呼ばれた場合はどうすれば良いのだろう?と思い、ファミレスの並びの回転すし店に入りました。

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江利川ちひろ

江利川ちひろ

江利川ちひろ(えりかわ・ちひろ)/1975年生まれ。NPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)代表理事、ソーシャルワーカー。双子の姉妹と年子の弟の母。長女は重症心身障害児、長男は軽度肢体不自由児。2011年、長男を米国ハワイ州のプリスクールへ入園させたことがきっかけでインクルーシブ教育と家族支援の重要性を知り、大学でソーシャルワーク(社会福祉学)を学ぶ。

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