精子を採取するカップ(佐藤さん提供)

俺が原因で子どもができないかも

 その同級生は、学生時代から仲の良い男友達の一人。4年前に彼が結婚してからも2〜3カ月に1度のペースで会っている。いつものように居酒屋で飲んでいたある日、思いつめた表情で、「実は、俺が原因で子どもができないかもしれないんだ」と打ち明けられた。

 いわく、妻がなかなか妊娠しないため、夫婦で不妊治療クリニックに行き検査をした。すると、夫である自分に問題があることがわかった。精子の数が極端に少なく、運動率の低い「造精機能障害」と呼ばれる状態であることが判明したという。

 泌尿器科を受診し、薬剤やサプリによる治療や生活習慣の見直し、造精機能障害を引き起こす精索静脈瘤の治療などをしたものの、精液所見は改善されず、医師から体内での受精が困難だと診断された。「体外受精」であれば可能性があるが、女性側の負担も大きく、治療は保険適用になったとはいえ、1回につき20万円前後の費用が必要になる。

「自分のせいで、妻に負担をかけてしまう」「もし子どもができなかったら」と話す友人は、言いようのない苦しさを抱えているように見えた。

ちゃんとした食生活で体力もある

 高校時代からサッカー部に所属し、社会人になってもランニングを続けるなど、体力には自信がある印象だっただけに、「精子に問題があり、子どもがつくれないかもしれない」という嘆きは、佐藤さんにとっても衝撃だった。

「なんとなく、不妊治療=女性のための治療という感じがしていたのですが、そうか、男性が原因の不妊というのもあるのか、と。精子の質が生活習慣にも左右されると聞いて、焦りました。というのも、僕は自炊を一切しなくて、普段の食事は外食かコンビニ飯、レトルト食品ばかり。友人は毎日奥さんの手料理を食べ、自分でも料理をするんです。明らかに僕よりちゃんとした食生活だし、体力もあるし、そんな彼でも問題があるのかと……」(同)

 その後、精液検査についてネットで調べてみると、思いのほか手軽にできることがわかった。自宅か病院かで、マスターベーションで精液を採取し、病院に持って行くだけで、精液量、精子濃度、運動率、正常形態率が検査できる。金額も5千円程度と、自費診療にしては「そこまで高くない」。

 さらに、調べ進めるうち、精子も老化すること、その老化が将来の妊娠・出産に影響する可能性についても知った。そして、健康な男性も将来のために「精子凍結」できることを知ったのだ。

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孤独感が軽減される淡い期待