1月22日にApple 表参道で行われた、Apple Music Classicalプレス発表会の様子(Apple Japan提供)

クラシックの定義が変わりつつある

 未曾有のパンデミックで社会不安が高まる中、ストレスを和らげて心を穏やかにしてくれる音楽のニーズが高まった。そこで、「リラックス」「ぐっすり眠れる」「仕事に集中」など、自分の気持ちや状況といった“ムード”にぴったりの曲を集めたプレイリストが数多く再生されるようになった。

 ヒーリング音楽の代表選手といえばクラシック。リスト内に数多くおさめられているため、ムード・リスニングの広まりとともにこれまでクラシック音楽になじみがなかった人びとも触れる機会が増えたというわけだ。

 さらに、近年のクラシック人気を支えるもう一つの要因が、「クラシック音楽の定義が変わってきたこと」(コウガミ氏)だという。

「本来は、モーツァルトやショパンやチャイコフスキーが手がけた西洋の古典音楽が、クラシックです。しかし最近は、映画やドラマ、ゲーム作品で使われている“クラシック風”の音楽もクラシックに分類されて親しまれています。ロンドンの名門貴族の姿を描いたNetflixの大ヒットドラマ『ブリジャートン家』や、ゲームの『ファイナルファンタジー』シリーズのサウンドトラックが良い例です。古典かどうかという定義は関係なく、自分にとって心地よい音楽をクラシックとして楽しむ風潮が広がっているのは、面白い現象だと思います」

 さらに、TikTokやYouTube上では、テイラー・スウィフトのようなポップスアーティストの楽曲をクラシックテイストにアレンジして演奏したカバー動画が大量に投稿されており、若年層を中心にクラシックのボーダーレス化はますます進んでいる。

「“クラシック風”の曲との出会いを機に、従来のクラシック音楽に興味を持つようになった人もいるでしょう。今、クラシックの世界への入り口はどんどん増え、多様になっています」(コウガミ氏)

 コンサートホールで偉大な音楽家たちの名曲に耳を傾けていた時代を経て、より気軽に、より自由に。クラシック音楽界は今、大きな変革期を迎えている。

(AERA dot.編集部・大谷百合絵)

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大谷百合絵

大谷百合絵

1995年、東京都生まれ。国際基督教大学教養学部卒業。朝日新聞水戸総局で記者のキャリアをスタートした後、「週刊朝日」や「AERA dot.」編集部へ。“雑食系”記者として、身のまわりの「なぜ?」を追いかける。AERA dot.ポッドキャストのMC担当。

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