たどり着いた「シュラスコ」。フランクフルトの存在感もある(筆者撮影)

 こうして、17年「Handicraft Works」がオープンした。目の前でシュラスコを焼き、それを豪快に乗せた油そばは他では見たことのない唯一無二の一杯だった。当時から価格は1000円と、ラーメンの「1000円の壁」問題が叫ばれる前から1000円を超える一杯を提供していた。

 オープン当初は物珍しさにお客が入ったが、3カ月経つと客足がパタッと遠のいた。

「オープン前は都内の物件を探していましたが、シュラスコ機が大きすぎてなかなか置ける場所がなく、半ば投げやりで八潮の物件に決めたのです。それが仇となりました。住宅街の中で駅からも遠いのでお客さんが全く定着しない場所なのです」(鶴岡さん)

独特な見た目だが、塩ダレが実にラーメンらしい味わい(筆者撮影)

 立地だけでなく「値段が高い」という声も多かったが、賛否は一切気にしなかった。批判があることも織り込み済みで、そのなかでオンリーワンを目指すのが鶴岡さんの考えだった。地道に味をブラッシュアップさせていくなかで、『TRYラーメン大賞』の汁なし部で2年連続1位を獲得。テレビの企画で俳優の佐藤健さんが食べに来た頃からお客が激増し、一気に人気店の仲間入りとなる。

「ラーメンらしい塩ダレを合わせることで、ギリギリこれはラーメンだなと思ってもらえるように味を設計しています。さっぱりで重くなく、かつお腹いっぱいになるように肉を噛む回数なども工夫しました。値段も値段なのでパフォーマンスもすごく大事ですね」(鶴岡さん)

特徴的なメニューが並ぶ。パルメザンチーズやバター、青のりなどトッピングも豊富だ(筆者撮影)

■ラーメン屋を「カッコいい」職業に

「ラーメン」に近づければ近づけるほど安くせざるを得ない。昔の考えを捨て、時代が変わるしかないと考えた鶴岡さんは、ラーメンからかけ離れた値段設定を続けていく。今は「ワイルドパレット」が1560円、平均単価は1800円だ。他でもラーメン一杯1000円を超える店が増えてきて、だんだんと時代がついてきた。

「自分でも高いと思いますが、これから人口も減っていくので、客数が半分になっても耐えられる設計をすることが必要だと考えています。ラーメンの薄利多売の厳しさですね。まさに今考える時代に来ていると思います」(鶴岡さん)

 具はシュラスコ、フランクフルト、ローストパイン、レタス、刻みタマネギ。麺は極太の自家製麺。お肉もただ派手なだけではなく質が高く素晴らしい。これだけ肉が乗っていても麺の存在感がしっかりあり、クオリティも抜群だ。圧倒的なおいしさと満足度で、値段のことなど忘れてしまう幸せ感。これぞまさに鶴岡さんの目指したところなのだと思う。

一見、肉の存在感が際立つが、麺とのバランスも抜群だ(筆者撮影)

「だんだん若い人たちがラーメン屋を目指さなくなってきているようにも感じます。これからはラーメン屋がカッコいい職業にできないかを考えていきたいです」(鶴岡さん)

 次回の記事では「Handicraft Works」の店主・鶴岡さんの愛する名店をご紹介する。(ラーメンライター・井手隊長)