photo (c)Number 9 Films Living Limited
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 舞台は1953年、第2次世界大戦後のロンドン。役所の市民課に勤めるウィリアムズ(ビル・ナイ)はある日、医者からがんを宣告され余命半年と知らされる。空虚な日々に別れを告げ、人生を見つめ直すが……。連載「シネマ×SDGs」の46回目は、黒澤明監督の名作「生きる」をノーベル賞作家カズオ・イシグロの脚本でリメイクした「生きる LIVING」のスティーヴン・ウーリープロデューサーに話を聞いた。

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 初めて「生きる」(1952年)を見た時、好きではありましたが、実はそれほど感動しませんでした。でも、カズオ・イシグロさんが「生きる」の映画化を提案してくださり、改めて見返したらとても感動したのです。最初に見た時から40年以上が経ち、私は年を重ね、知恵もつきました。良い映画は良いワインと同じように年月を重ねても素晴らしいものでした。イシグロさんはビル・ナイを主人公に考えていたので、脚本を書かないかと提案しました。映画化のアイデアは彼からでしたし、私には彼以外の選択肢はありませんでした。

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 映画は50年代のロンドンが舞台です。復興中のロンドンは資金がありませんから、いろんなことが停滞していました。イシグロさんも私も50年代生まれ。私は当時のロンドンを経験しています。爆撃跡で遊んでいましたし、家も小さく、狭い台所で家族5人が一緒に寝ていました。そんな生活でしたから、役所に陳情に来る女性たちの気持ちもよくわかります。

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 主人公の(貧しい地域で公園を作るために奔走するという地味な)振る舞いは、ヒーローらしくありません。でも、この映画に今どきのアクション映画のようなヒロイズムは必要ない。力でねじ伏せることなしに、他者をリスペクトすること、人間性を重要視することができるのだというメッセージは、特に、若者に向けて重要です。その思いは、黒澤監督も持っていたのではないかと思っています。

スティーヴン・ウーリー(プロデューサー)Stephen Woolley/1956年生まれ。「狼の血族」(84年)でプロデューサーデビュー。「クライング・ゲーム」(92年)他、話題作を多数プロデュース。3月31日から全国公開(撮影/坂口さゆり)
スティーヴン・ウーリー(プロデューサー)Stephen Woolley/1956年生まれ。「狼の血族」(84年)でプロデューサーデビュー。「クライング・ゲーム」(92年)他、話題作を多数プロデュース。3月31日から全国公開(撮影/坂口さゆり)

 コロナ後の今、誰もが人生の大切さを改めて噛みしめています。私はこの映画が、短い人生であっても誰もが小さな変化を起こすことができる、ということを思い出させる作品になってほしい。見る人誰もが「生きる」ことを抱きしめたくなるような気持ちになってくれればうれしいですね。

(取材/文・坂口さゆり)

AERA 2023年4月3日号