おそらくそういう人が書いてきたのは、一人の人に話を聞いてまとめている、いわば「聞き書き」と同じたぐいの記事だったのだろう。

 時間をかけて複数のソースに確認をし、意味のあるノンフィクションや記事を書いている人たちの邪魔にならないように議論をしてほしいなと。だいたい、久住さんがそうツイートしてしまったのは、わざわざ久住さんがコメントしなくとも、記事ぐらい書けよ、識者の声をいちいちとるってあんたの考えを書けばいいじゃないか、ということだったんだと思う。

 新聞記事だけでなく、「ノンフィクション作品」でも、取材した人たちに事前に原稿を見せて校正をさせながら、そのことを読者に伝えていない作品がある。それはプロが読めばわかるが、一般の人はなかなかわからない。米国では、事前に原稿を見せてつくったものは「Authorized」という言葉を使ってそのことを明記している。

 本当の報道とは何か、本当のノンフィクションとは何かということについては、今後もこのコラムで考察していきたい。

 新年あけましておめでとうございます。

下山 進(しもやま・すすむ)/ ノンフィクション作家・上智大学新聞学科非常勤講師。メディア業界の構造変化や興廃を、綿密な取材をもとに鮮やかに描き、メディアのあるべき姿について発信してきた。主な著書に『2050年のメディア』(文藝春秋)など。

週刊朝日  2023年1月20日号

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下山進

下山進

1993年コロンビア大学ジャーナリズム・スクール国際報道上級課程修了。文藝春秋で長くノンフィクションの編集者をつとめた。聖心女子大学現代教養学部非常勤講師。2018年より、慶應義塾大学総合政策学部特別招聘教授として「2050年のメディア」をテーマにした調査型の講座を開講、その調査の成果を翌年『2050年のメディア』(文藝春秋、2019年)として上梓した。著書に『アメリカ・ジャーナリズム』(丸善、1995年)、『勝負の分かれ目』(KADOKAWA、2002年)、『アルツハイマー征服』(KADOKAWA、2021年)、『2050年のジャーナリスト』(毎日新聞出版、2021年)。元上智大新聞学科非常勤講師。

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