上弦の弐の鬼・童磨。画像は公式パンフレット「鬼滅の刃 上弦集結本」より (C)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable

【※ネタバレ注意】以下の内容には、アニメ、既刊のコミックスのネタバレが一部含まれます。

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 現在劇場で公開中の『鬼滅の刃』「絆の奇跡、そして柱稽古へ」にあわせて、2月17日と24日にテレビで「遊郭編」特別編集版が放送された。苦境の中で育ち、鬼にならざるをえなかった妓夫太郎と堕姫が、上弦の鬼・童磨に「救われた」過去が描かれる。しかし、童磨が彼らに見せた優しさと救済は本物だったのか、という点は鬼滅ファンの間でも意見が分かれる。では“識者”はどうみるのか。本サイトの「鬼滅連載」でもおなじみの、神戸大学学術研究員で伝承文学研究者の植朗子氏に「鬼の優しさ」「童磨という鬼の特性」についてコラムを寄稿してもらった。

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『鬼滅』の鬼=人間を喰うモノ

 『鬼滅の刃』に登場する鬼たちは、人間を単なる「捕食対象」とみなしています。人間の中でも特別な栄養価を含むという「稀血(まれち)」の持ち主、食事対象として「おいしい」と言われる若い女性などもそうでした。鬼は基本的に「人間の心」に関心を示すことはありません。ならば鬼には人間への同情心や共感がまったくないのかと思いきや、彼らがそういった感情(のようなもの)を見せるシーンはいくつも描かれています。「鬼の心」はどのように動くのでしょうか。

竈門炭治郎・立志編」に登場した「鼓の鬼」を例にあげましょう。この鬼は、「餌」にしようとした少年少女たちの恐れや涙に、同情する様子をまったく見せません。「鼓の鬼」はかつて作家を目指していたものの、周囲の人間に蔑まれ、夢破れた人間でした。しかし、鬼化後も自分の原稿を捨てることができずにいます。この鬼との戦闘中、炭治郎は足元にあった彼の原稿をとっさに踏まないようにするのですが、それを見た鬼は、炭治郎の思いやりある行動に心が揺らぎます。

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植朗子

植朗子

伝承文学研究者。神戸大学国際文化学研究推進インスティテュート学術研究員。1977年和歌山県生まれ。神戸大学大学院国際文化学研究科博士課程修了。博士(学術)。著書に『鬼滅夜話』(扶桑社)、『キャラクターたちの運命論』(平凡社新書)、共著に『はじまりが見える世界の神話』(創元社)など。

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鬼舞辻無惨はまぎれもなく「救済者」