いま電気自動車などに世界で需要が旺盛な電池のプラスの正極は高品位のニッケル製。フィリピンでの採掘に2009年に出資し、世界でシェア首位だ(撮影/狩野喜彦)

 日本を代表する企業や組織のトップで活躍する人たちが歩んできた道のり、ビジネスパーソンとしての「源流」を探ります。AERA2024年 2月19日号より。

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 銅の採掘の「現場」を観るのは、初めてだった。

 米アリゾナ州の東端にあるモレンシー銅鉱山。1992年夏に、カナダ西海岸のバンクーバー事務所へ赴任して1週間後、事務所が管轄しているこの銅鉱山へ前任者と2人で仕事の引き継ぎを兼ねて訪れた。鉱山の権益は住友金属鉱山が12%、住友商事が3%。1986年に、100%持っていた米フェルプス・ドッジ(現フリーポート・マクモラン)から買い受けた。

 着くと、高台へ案内された。崖の近くに立ち、眼下にすり鉢状の谷がみえる。谷底が「ピット」と呼ぶ露天掘りの「現場」だ。トラックが、周囲の斜面を何度も回って下りて、鉱石を受け取りにいく道路がある。上からみると、同心円のようだ。

「美しい」──最初に出た言葉だった。

別子銅山の閉山後世界へ目を広げた先人たちへの感動

 州都フェニックスの空港でレンタカーを借りて、モレンシーまで、4時間余り運転した。ここでは、次々に新しい鉱脈が掘られている。鉱石に含まれる銅の比率は普通1%程度で、品位を高めて30%くらいにした銅精鉱を、愛媛県新居浜市など精錬の拠点へ送り出す。

 谷底の向こうにみえる山系の懐に、まだまだ鉱脈がある、と聞いた。全景は、空へ上がらないと、みえない。世界で指折りの規模だ。こんなにすごい銅鉱山の権益を、財務にゆとりがあったときではないのに、先人たちは買い取った。

 江戸時代から283年も掘り続けた新居浜市の別子銅山が、73年に閉山した。今後の銅鉱石の入手は、どうするか。経営陣は将来を見据え、目を海外へと広げ、経営が苦しくなったフェルプス・ドッジから権益の一部を買い取ることを決断した。その先見性と国際性。経営のあるべき姿が、モレンシーの光景に浮かぶ。中里佳明さんがビジネスパーソン人生の『源流』になった、と挙げる感動だ。

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