それで新たに立ち上げたのが「Down to Earth BEYOND HEALTH」という会社です。この会社の活動を通じて、医療法人を立ち上げて在宅医療の提供をおこなう計画を立てています。さらに、在宅医療のエビデンス(科学的根拠)を集め、研究と実践の橋渡しを目的とした拠点を作ろうとしています。

林 英恵/はやし・はなえ
パブリックヘルスストラテジスト・公衆衛生学者、Down to Earth 株式会社 代表取締役
(撮影/写真映像部・高野楓菜)

――介護をする中でどんな課題を感じたのでしょうか。また、その新会社は具体的にどんな事業をおこなっていくのでしょうか。

 ひととおり介護を経験して感じた課題は、在宅医療の分野が家族のマンパワーありきで制度ができていることです。国は在宅医療や介護を推進していますが、仕事を減らす、もしくは辞めないとできない。実際に総務省によると、2022年9月末までの1年間の介護離職者は10万6000人で、前回調査の17年より7000人増えている状況です。

 また、介護は正解が見えず、何をすれば正解なのかわからないところがもどかしいと感じていました。

 海外から日本の高齢化についての取材の問い合わせも多いのですが、よく言われるのが、日本には、優れた介護の事業所や取り組みがたくさんあるが、個々の「素晴らしいケース」にとどまっていて、海外でそのまままねることが難しいということ。要は、事業所ごとに「こうすると介護者の負担が少ないよ」といった、実務の中で培われてきた「暮らしの知恵」のようなものはたくさんあるのですが、その方法論がエビデンスとしてはまとまっていない。私は、パブリックヘルスの観点から、日本が長年高齢化に向き合う中で現場の人たちが努力して作り上げた在宅医療の方法や知恵を、エビデンスにしていきたいと考えています。

 介護される人とする人が、介護の道のりの中で、どういうときに何をしたらより健康で幸せでいられるのか、体系的なメソッドを確立し、それを日本発で世界に向けて発表していきたいです。日本の現場で培われたメソッドが、国や言葉の壁を越えて、全世界で使用されるようになること。これが目標であり、超高齢化に立ち向かう日本がリーダーシップをとっておこなうべきことです。

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