また、弁護士城戸と、刑に服しながらも真相への手がかりを与える詐欺師小見浦憲男役柄本明さんの壮絶なやりとりは、「羊たちの沈黙」のジョディ・フォスターとアンソニー・ホプキンスの鬼気迫る対決に匹敵するシーンのようにも感じ、隠された真実への道のりの過酷さを象徴していた。
映画館から自宅に帰るまで、往来をゆく顔、顔、顔を眺めながら、彼らのプロフィールは果たして本人が記した履歴書通りなのだろうか。そんなことまで考えた。
日本アカデミー賞受賞の場で石川慶監督へ感謝の言葉に触れた妻夫木さんは、こらえきれずに感涙にむせんでいた。自分の受賞のところでは泣かなかったのに、監督のところで泣いてしまったのは、「監督の苦労を目の前でずっと見てきたから、込み上げてしまいました」
僕もブッキーのそんな言葉にもらい泣きした。
優しさと人生への思いやり。役への真摯な取り組みとストーリーに対しての洞察。山田洋次、阪本順治、行定勲、犬童一心、李相日、三谷幸喜など名だたる映画監督作品に出演、俳優・妻夫木聡は日本映画になくてはならない俳優だ。ブッキー、おめでとうございます!
延江浩(のぶえ・ひろし)/1958年、東京都生まれ。慶大卒。TFM「村上RADIO」ゼネラルプロデューサー。小説現代新人賞、アジア太平洋放送連合賞ドキュメンタリー部門グランプリ、日本放送文化大賞グランプリ、ギャラクシー大賞など受賞。新刊「松本隆 言葉の教室」(マガジンハウス)が好評発売中
※週刊朝日 2023年4月7日号