北野滋久(きたの・しげひさ)/1972年生まれ。三重大卒。米メモリアルスローンケタリングがんセンター、国立がん研究センターなどを経て現職(撮影/中村智志)

──副作用はどうですか。

北野:免疫が暴走すると、強い副作用が出ます。サイトカイン放出症候群は要注意です。

個別化医療の時代へ

──ほかに、注目している治療法はありますか。

北野:抗体薬物複合体(ADC)です。免疫の仕組みとして、体内に異物が入ると、異物を排除しようとする抗体を作ります。抗体は、異物が出している目印(抗原)を見つけてその異物に近づき結合します。この仕組みを応用したのがADCです。抗がん剤を付けた抗体を人工的に作り、その抗体が標的のがん細胞と結合すると、抗がん剤が攻撃を開始します。理論上は、抗体に結合している抗がん剤は、標的以外の正常細胞は攻撃しません。治療効果の増強と副作用の軽減が期待できます。

──ADC以外では?

北野:二重特異性抗体です。人工的に作った抗体に、免疫細胞(リンパ球)とがん細胞を結合させて、リンパ球を介してがんを攻撃します。ADCも二重特異性抗体も、今は一部のがんにしか使えませんが、対象のがんが広がることを期待しています。がん研でも、できるだけ多くの治療を届けるために、さまざまな免疫療法も含めてたくさんの臨床試験を行っています。

──免疫療法の将来をどう描いていますか。

北野:個人個人の遺伝情報の解析を元にして、一人ひとりの患者さんに適した個別化医療を実施する時代に徐々に向かっていくことでしょう。がんになってもがんで亡くならない。そんな世界を目指しています。

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