しかも鉄道であれば、藤井本人が好きで周囲もそれを知っているので、主催者側もオファーしやすいだろうという。

「とりわけ藤井さんは、自分は将棋界の『顔』という自覚を持っています。しかも八冠という立場になれば、色々なところでファンサービスをするのは自分の義務で、ひいてはそれが、将棋の普及につながるとも考えていると思います」(松本さん)

 2001~03年、雑誌「将棋世界」の編集長を務め、『伝説の序章 天才棋士・藤井聡太』の著書もあるなど藤井をよく知る田丸昇九段(73)も、藤井がタイトル戦で各地を回ることは「町おこし」に繋がっているという。

「昨年6月、日本将棋連盟の新会長に就任した羽生善治九段は、会長になるに当たりいくつかのプランを挙げましたが、その一つに、各地の自治体と連携した『地方創生』があります。藤井もその思いを持っていて、請われれば車掌体験などもやっているのだろうと思います」

 自らも「乗り鉄」だという田丸九段。いま岐路に立つ各地の地方鉄道が、藤井によって盛り上がることを期待し、こう話す。

「藤井聡太という存在がなければ、今のような将棋界の賑わいはなかったです。藤井は将棋界の救世主でした。同じように、今度は地方鉄道の救世主になってほしいですね」

(文中一部敬称略)(編集部・野村昌二)

AERA 2024年2月5日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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