国内トップ企業の社長の驚きの第一声
何年か前に、日本を代表する某企業の社長A氏について、あるエピソードを聞いて仰天したことがあります。それは、某企業の社長で外国籍のB氏が、初めてA氏の会社に訪れた、重要な会議の日のことです。
もともと、A氏の企業側からの提案で会合することとなり、多忙を極める両社長の秘書たちで事前にスケジュール調整が行われ、ようやく会える日が決定したという経緯があったそうです。
そして会議の日、案内された社長室のドアを開けて流暢な日本語で「こんにちは。初めまして」と、笑顔で切り出し名前を伝えたB氏に対してA氏は、「外国人だったんだ」と、反応したというのです。
その話を聞いて、私は思わず耳を疑いました。その後、A氏は自己紹介をすることもなく、本題に入ったそうですが、その会議の内容について、A氏と部下たちとのコミュニケーションがうまく取れていないことや、議題のビジネスプランに関してのA氏の知識不足も露呈し、結局、その後、両社はうまくコラボレーションすることができずに終わってしまったとのことでした。
無礼なひとことが会社の命運を左右する
A氏のように、日本を代表するような企業を背負う社長という役職に就く人物であれば、それなりの実績があり、大きな組織のトップとして多角的に優れた能力を持っている方であることは想像できます。
ただ、「外国人だったんだ」という言葉が、どれほど無礼であるかを理解せずに発言してしまう人物がトップであることは、老婆心ながら心配になってしまいます。
その理由は、そうした人が、企業の収益や国際社会への展開につながるような重要な会話で失言を繰り返し、不信感を相手に与えるリスクはもちろんのこと、そうした経営者をそばで見ている優秀な社員たちが「社長がこのレベルでやっていけるのか」と、離れていく可能性すら無視できないからです。
全ての企業経営陣は、無礼な言動が、企業から優秀な人や良質なアイディアを逃してしまう要因となり得ることを理解し、用心する必要があるはずです。
無礼さがビジネスにおいて、人間関係や収益、ブランド価値などに、いかに大きな悪い影響を及ぼしているかは、アメリカのビジネススクールで「職場の無礼さ」を研究しているクリスティーン・ポラス氏によるベストセラー『Think CIVILITY「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である』(東洋経済新報社)の中でも、明確な論拠とともに示されています。