
数字こそが正義という価値観
――ひとりの読者としても、タイトルにつられてクリックしたものの中身が伴っていない記事や、広告のような、ステルスマーケティングではないかと疑ってしまう記事を目にしてがっかりすることがあります。
小野 いわゆる「釣り記事(タイトルを派手に盛るなどしてクリック数を稼ごうとする記事)」のことですよね。ビジネスマン時代に広告業界とも縁がありましたが、例えば健康への効果をうたう商品などで、法的にぎりぎりのものも少なくありません。
モラルなき数字への欲。数字こそが正義だという価値観は、いろいろなところに課題をもたらしていると感じています。民間企業の不祥事も、昨年発覚したものもそうでしたが、数字のプレッシャーの中で起きているのでしょうから。
――数字を捨てた小野さんの目に、われわれメディアの現状はどう映りますか。
小野 良し悪しではなく、それもひとつの役割なのだと思います。それこそメディアやニュースで数字を取るものって、生きていくうえでそんなに必要がないものばかりですよね。政治家や有名人のスキャンダルがまさにそうですが。
他人の失敗や良からぬうわさ話で安心感を得たがるのは、自分はまっとうでいたいという人間の性(さが)なのだと思います。みんなが日常のそうした快楽を求めている中で、それに応える話題を提供していくことは「悪」だとは思いません。
ただ、世の中全体の話としてですが、モラルを考えずに「数字、数字」という感覚に陥っていくと、決していい未来にはつながらないのではないかと危惧しています。