ビジネスの世界で活躍していたころの小野さん

「モラルなき膨張」への疑問

 世の中全体への欺瞞にも、目が向くようになった。経済成長は「是」とされるが、実態は売り上げや時価総額の数字を、ただ膨らませようとしているだけになってはいないか。企業によっては、成長一辺倒で数字を追うあまりに、環境破壊をもたらしたり、売れ残りにより大量のゴミを生み出していたりする。そんな「モラルなき膨張」への疑問もわいた。

 とはいえ、自分は投資家としてその流れに潤滑油を注入し、ひとりの消費者としても「あれが欲しい、これが欲しい」と、それを後押ししている現実――。こうした違和感は苦しみへと変わり、仏門をくぐることを決意するまで、どんどん大きくなっていったという。

  2022年の秋に、インドで得度。「前世」では数字を追いかけたが、今は「何も持たない身」になった小野さんに、質問を投げかけてみた。

――われわれネットメディアは、価値のあるニュースや話題を提供したいと考える一方で、日々、記事の閲覧数である「PV(ページビュー)」の数字に追われています。

小野 資本主義社会で、数字を完全に排除するのは難しいと思いますし、目先の数字を追うことが「悪しきこと」だとは言い切れません。

 数字を伸ばす、会社を成長させる、家族のためにいい給料を得る。決してよこしまな感情ではなく、ある種、純粋なことだと思います。

 ですが、数字以外の価値観があまりに置き去りにされているがゆえに、数字偏重主義に陥ってしまっている側面はあると思います。

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企業の不祥事も数字へのプレッシャーから