インドで髪を剃る小野さん

「今あるもの」に目を向ける

――付箋ですか。例えば大きな財産や名声など、一般人がうらやむ付箋を貼れる立場の人も、内面にもやもやを抱えていることがあるのですか。

小野 私が直接お話をさせていただいた方で、数千億円の資産を持っていても「死にたい」と言っていた人がいます。

 人気芸能人などの自殺も同じ仕組みなのかもしれませんが、一般的な生活をしている人から見て、あこがれの対象になるほどの財産や人気を獲得した方ほど、逆にそれを「失う」ことの恐怖心や、「もっと膨らませないといけない」という強迫観念にとらわれるのだと思います。

「これ以上、どう稼げというのか」「これ以上の人気なんてあるのか、あとは落ちていくだけじゃないのか」と。持っているが故の苦しみが、あるのだと思っています。

――小野さんは、その持っていたものを捨て去って出家されましたが、「前世」にはなかった何かを得たのですか。

小野 とても穏やかな心を手に入れることができました。よかったなあって思っていますよ。あえて強い言葉で言いますと、「こんなもの」に翻弄されながら「自分で自分の人生を作っている」という錯覚に浸ってしまっていたんだなあって。

 でも、数字を追い求めた時代が、むだだったとは思いません。苦しんだからこそ、気づくことができたのですから。

――その「気づき」とは?

小野 すべてをなくしてみると、「今あるもの」に目を向けることができるようになるんです。がらりと世界観が変わりましたよね。

 例えば自分は明日、寒い東京へ袈裟と素足という姿で行きます(※取材当時は修業で海外に滞在)。

 まずは空港のベンチで寝て夜を明かして、その他の日は野宿をするかもしれません。一日の食事も、ナッツバーを食べる程度です。

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「有ることが難しい」