性暴力被害者への非難は繰り返される。被害者は二次被害を恐れ、誰にも相談できなくなり、絶望感や無力感に襲われたりするようになる
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 性暴力に遭った後、周囲の言葉でさらに傷つけられる。性暴力の二次被害の背景に何があるのか。なくすには、どうすればいいか。AERA2024年2月5日号より。

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 性暴力に遭った女性をさらに傷つけたのは、人格をも否定する二次被害だった。

「やっとの思いで訴えたのに、私が嘘つきで牧師をはめた加害者のような扱いをされ、非常に傷つきました」

 女性は、難病治療のため聖路加国際病院(東京都)に2017年から通院していた。しかし同年5月、「チャプレン」と呼ばれる男性牧師から、病院内で2度にわたり性暴力を受けた。18年1月、女性は警察に被害を相談し、被害届を提出した。すると同年9月、横浜市の教会に属する女性牧師が、日本基督教団の牧師仲間や日本スピリチュアルケア学会の関係者らと「A牧師を支えて守る会一同」の連名で、「真面目に患者に寄り添ってきたチャプレンが無実の罪を着せられた」などの声明を発表した。自身のフェイスブックで声明の支持を呼びかける牧師もいて、キリスト教系の新聞2紙は声明を引用して記事を掲載した。

SNSで誹謗中傷

 SNSなどでは「加害者を誘って陥れた」「恋愛の縺(もつ)れの逆恨み」と女性を誹謗中傷する言葉が飛び交った。女性はこの件を理由に聖路加国際病院での治療を断られ、仕事の契約更新もしてもらえなかったという。

「患者として治療を受けられなくなっただけでなく、キャリアも喪失し、人格を否定されました」(女性)

 女性は、加害を行った日本基督教団の関係者や日本スピリチュアルケア学会などに二次加害の調査等を申し入れた。しかし、真摯な謝罪はなく、訴訟による事実認定を促されたという。そこで23年9月、声明にかかわった牧師3人とキリスト教系の新聞2紙を相手取り、計330万円の損害賠償と記事の削除などを求め東京地裁に提訴した。

「加害者は全く無自覚で相手を傷つけている意思はありません。しかし性暴力の二次加害は6年近くに及び、一次被害よりも被害者の人生を狂わせた事の重さを知っていただきたい」(同)

 最初に声明を公表した女性牧師は本誌の取材にこう回答した。

「司法の判断に委ねるとしか申し上げられません」

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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