待たれる解析

 今回の事故で、副操縦員(主任飛行士、41歳)は機長と同じように「進入許可が出た」と誤認したのだろうか。もし、同じ誤りをしているのだとしたら、それもCRMの問題が考えられる。あるいは、「許可は出ていないのではないか」という確信はないまでも何らかの違和感を持っていたかもしれない。だが、自信を持って作業を進める機長の様子を見て、自分の勘違いだろうと納得したり、あるいは、声をかけてみたが反応がないのでやはり勘違いだろうと判断したり。一方、機長の方は、何か問題があれば副操縦員が言うはずだと信頼していたり、離陸準備の作業に気を取られて副操縦員からの注意喚起に気づかなかったりといったこともあり得ない話ではない。

 CRMがよく機能して、何らかの違和感に気づき、「管制に確認してみよう」となっていれば、ヒヤリハット(インシデント)の1件で済んだかもしれない。ボイスレコーダーの解析が待たれる。

思い込みなかったか

 一方、管制官やJAL機が滑走路上の海保機に気づけなかったのかどうかについても様々な言及がある。

 今回、EUなどで義務づけられているADS-B(放送型自動従属監視)という装置を海保機が搭載していなかったことを問題視する報道もある。だが、ADS-Bがあれば防げたかどうかははなはだ疑問だ。ADS-Bは、航空機が主にGPSを使って自分の位置や高度を測り、それを放送してお互いに知らせあい、周囲の航空機の位置や速度を立体的に把握する仕組みだ。その情報をTCAS(空中衝突防止装置)が利用することで、「空中」での衝突を防ぐには非常に有効だ。

 だが、多くの航空機が隣接、密集して駐機している空港の地上での衝突防止に本当に役に立つのか、疑問だ。地図で見ると待機位置と滑走路の距離はせいぜい100メートルぐらいだ。着陸までの数十秒の間にADS-Bの表示で海保機の正確な位置を把握する余裕があるだろうか。

 管制官にしてもJAL機のパイロットにしても多くの計器類を監視し、操作や交信もしている中で、いるはずのない小型機がいることに気づけたかは疑問がある。

 それでもあえて指摘するなら、パイロットに「管制官が着陸を許可した滑走路に障害物があるはずがない」という思い込みがなかったか。特に今回の事故についてコメントする元機長たちには「管制官がミスすることはほぼあり得ない」という強い信頼が感じられた。

 CRMは乗員だけでなく、管制官など地上との間にも広げるべきかもしれない。(朝日新聞EduA編集部・鍛治信太郎)

AERA 2024年2月5日号

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