ショーが終わるや、小泉には有名デパートやセレクトショップからオファーが相次いだ。バイヤーとの面談に追われ、様々なビジネス展開を強引に持ちかける人たちもいた。一人ですべて対応する小泉は疲れ果てていく。商業主義の波にもまれながら、既製服の量産はしないと決断した。
「どこかであきらめがついたというか、自分が興味のあることだけ関わればいいと思ったらわりと楽になった。実力あるデザイナーでも、ぱっと人気が出てもまた消えていく厳しさを見てきたので、急激な拡大や露出はしない方がいいなと。自由に制作するために頑張って掴んだチャンスなので、やりたいことだけやろうと開き直った感じです」
着る人を思い描いて、一つひとつデザインを考え、真心を込めて作るオーダーメイドのドレス。それが自分らしいモノづくりのスタイルだった。
小泉がドレスに込めるメッセージがより鮮明になったのは21年7月、京都で開催された「トモ コイズミ」のコレクションだ。舞台は夕立がやんだ二条城の庭園。三日月の光のもと、幻想的に揺らめくフリルのシルエットが際立つ。
「希望や祈りというものを形にしたかった。閉塞感がある社会の中で自分はどんな表現ができるのか、皆はどんなものを望んでいるのか。そう考えたとき、心の救いになるものや圧倒的な美しさが求められているんじゃないかと感じたので」
ドレスに西陣織や刺繍など日本の伝統工芸を生かし、スプレーで彩色する独自の技法で繊細な自然美を表現した。モデルはすべて日本人を起用し、性別や年齢を問わず個性ある人を選ぶ。冨永愛や我妻マリらトップモデルとともに、ドラァグクイーンの50代男性、トランスジェンダーのKEISHANなど多彩なメンバーが登場した。
「自分のドレスとその人の個性が組み合わされたときにより良い効果が生まれるし、本当に多様な人がいることを見てもらえたらいいと思いました。自分もマイノリティーであるという意識があったけれど、華やかなファッションを見て心が救われた。だから自分が作るもので、一人でも多くの人にハッピーになってもらえたらいいかなと」
小泉は東京五輪の大任を果たし、年末の紅白歌合戦で大トリを飾るMISIAの衣装を制作。それは少年の頃から憧れていた日本の晴れ舞台だ。
次に目指すのは、ロサンゼルスのハリウッド。世界のエンターテインメントの中心で勝負することを夢見ている。
「もっと人をワクワクさせるものを作りたいし、常に新しいことに挑戦したいじゃないですか」
小泉のドレスはカラフルな希望を未知の世界へ運んでいく。
(文中敬称略)
(文・歌代幸子)