明確なアイデアがあり情熱の吸引力を持つ人
Netflix社内でも坂本を慕うスタッフは少なくない。福井雄太(37)もその一人だ。
福井は09年に日本テレビに入社。若くしてドラマプロデューサーとして頭角を現し、「3年A組-今から皆さんは、人質です-」などの人気作を手掛けてきた。23年に同局を退社しNetflixに移籍した福井は、その理由を問うと「作り手としての坂本和隆に惚れてしまったんです」と告げた。
「坂本さんは明確なアイデアと明確な方針を持っている。一人のクリエイターとして、その構築の仕方や思考を学びたいと思った。僕自身、テレビのドラマの世界でいろんな仲間たちに恵まれてやってきたんですけれど、こんなに情熱の吸引力を持っている人に出会ったのは人生で初めてでした」
映像業界や芸能プロダクションに幅広い人脈を持つ福井は「びっくりするくらい、坂本さんのことを悪く言う人が一切いないんです」と言う。
「パッションがあって、新しいことをしようとしている。面白いものを作ることにひたむきである。皆さんそうおっしゃっていた。ゆえにすごく興味を持ったんです」
なぜ坂本はここまで人を惹きつけるのか。どのようにしてエンタメの世界に革新をもたらすキーパーソンになったのか。
坂本は1982年、静岡生まれ。東京・下北沢で育った。母親の実家が映画館を経営していたこともあり、子どもの頃から映画に親しんでいた。設計デザイナーをつとめていた父親は「ぶっ飛んだ人だった」という。
幼い頃はとても裕福な家庭だった。坂本の父親は名家の生まれだ。曽祖父が山口で鉄鋼業の企業を立ち上げて財を成し、会社を継いだ祖父は政界関係にも携わったという。
父が家業を引き継ぐことはなかったが、その縁もあり、政治家と芸能関係のつながりが深かった。交友関係も派手だった。音楽をこよなく愛し、名だたる映画監督や俳優、芸能プロダクションとも親しかったという。
「たとえば、ある日家に帰ったら『今日は舘ひろしさんとゴルフに行ってきたよ』と言ったりする。周囲に芸能人の方が多かった。エンタメを身近に感じる環境で育ってきたのは親父の影響ですね」
しかし、豊かな時期は長くは続かなかった。少年時代になると、父親の会社が傾き、経済環境は悪化。みるみるうちに生活に困窮するようになる。