佐々涼子。2020年に『エンド・オブ・ライフ』がヤフーニュース本屋大賞ノンフィクション本大賞を受賞した際に編集者の田中伊織が撮影。
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「佐々さん、心して読みます」

『ヤノマミ』『ガリンペイロ』などの著書があるNHKのディレクター国分拓(こくぶんひろむ)さんのSNSを見て、ああついに出たんだなとすぐに注文をした。

『夜明けを待つ』(集英社インターナショナル)

 佐々涼子さんは自分の病気のことを2022年12月13日のツイートで公表している。

〈残念ながら私の病気は悪性の脳腫瘍。待ち時間は延長線に入りました〉

 私がそのことを知ったのは、佐々さんの版元である集英社インターナショナルの幹部二人と2023年2月に夕食を食べたときのこと。

 二人は病名ははっきりと覚えられていなかったが、二人が語る経緯からすぐにその病気が何なのかがわかった。

「膠芽腫(こうがしゅ)」。脳腫瘍のグレード4とも言う。

 突然、脳の中に現れてすさまじい勢いで進行する。だから画像上、リングエンハンスという白い円環がうつったらば、「膠芽腫」を疑い、すぐに手術をする。

 平均余命は15カ月ほど。5年生存率は6~10数パーセントの難しいがんだ。

 私がそのことをすぐわかったのは、本当に偶然なのだが、この数年取材をしていたテーマがこの「膠芽腫」だったからだ。

人の生き死にも円環する

 佐々さんは、死と看取りをテーマに活動してきたノンフィクション作家だ。

『夜明けを待つ』は同じ版元から出ている『エンド・オブ・ライフ』(2020年2月刊)とあわせて読むとよいだろう。

『エンド・オブ・ライフ』は、三重構造の本だ。

 ひとつは2013年佐々さんがかよった京都の在宅医療の専門の診療所で看取った人々の話。ひとつは、在宅での看取りを取材することのきっかけになった自分の母の話。佐々さんのお母さんは“閉じ込め症候群”ともいうべき神経疾患で、身体の自由がままならない状態になり、それを父が在宅でつきっきりで介護をしていた。

 この二つの話が活字になったのは、2013年当時水先案内人になってくれた看護師森山文則に2018年8月にすい臓がんがみつかり、その看取りを書くことを本人から依頼されたからだ。

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下山進

下山進

1993年コロンビア大学ジャーナリズム・スクール国際報道上級課程修了。文藝春秋で長くノンフィクションの編集者をつとめた。聖心女子大学現代教養学部非常勤講師。2018年より、慶應義塾大学総合政策学部特別招聘教授として「2050年のメディア」をテーマにした調査型の講座を開講、その調査の成果を翌年『2050年のメディア』(文藝春秋、2019年)として上梓した。著書に『アメリカ・ジャーナリズム』(丸善、1995年)、『勝負の分かれ目』(KADOKAWA、2002年)、『アルツハイマー征服』(KADOKAWA、2021年)、『2050年のジャーナリスト』(毎日新聞出版、2021年)。標準療法以降のがんの治療法の開発史『がん征服』(新潮社)が発売になった。元上智大新聞学科非常勤講師。

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