顔を隠すときは、袖を使うことも。不仲の相手など、顔を合わせたくないという意思表示にもなった。

砂崎 時代ごとにいろんな衣装がありますけれど、なぜ平安だったんです?

承香院 うーん、たっぷりの布の量がポイントでしょうか。

砂崎 なるほど。やっぱりたくさんの美しい生地を使った衣装というのは、どこの国のものでも心引かれるものですよね。

承香院 カーテンのあとは友人の剣道着のお古を改造して長袴(ながばかま)にしたり。学芸会の衣装以下のレベルでしたけど、平安時代の装束のようなものを手作りするようになりました。やがて大河ドラマや古典を原作にしたコミック、古典文学などにも興味を広げていき、こうなるともう、どんどんのめり込んで、気がついたら足を取られて身動きできなくなっている状態でした(笑)。

砂崎 平安オタクというと、承香院さまのように衣装から入る人も多いですね。学校の授業で使う便覧に載っていた平安時代の衣装のページで興味を持って、平安の沼にやってきたという人もけっこう聞きます。

 ――ありましたね、便覧!砂崎さんも便覧派ですか?

砂崎 それが正反対というか……。承香院さまがカーテンを切り刻んでいらしたのと同じくらいの年の頃(笑)、私は源氏物語に出合ったんです。名場面だけを抜き出して、原文と現代語訳を並べた子ども向けの参考書が家にあったので、それを見比べながら原文を読み上げて暗唱するのが大好きでした。

承香院 いきなり原文ですか!

砂崎 そうですね。ひたすら音で読み始め、そのままズルズルと……。源氏物語を理解しようと思ったら、平安のことを知らなきゃいけない。仕方ない、平安の歴史を学ぶかと。つぎに仕方ない、装束について学ぶか、建築について学ぶかとなっていった。で、知識が増えるとそのたびに物語のおもしろさも増しますよね。気がついたら、事典を作れるほどになってしまったという(笑)。

 ――ちょっと待ってください。その源氏物語を声を出して読み上げる楽しさとは?

砂崎 日本語であるような、ないような。意味がわかるような、わからないような。例えば「この世にののしり給ふ光る源氏」という一節があるんですが、「ののしる」の意味は今の「罵倒する」ではなくて、「評判がわ~っと立つ」ということなのかとか。あと、光源氏は「光ってる源氏、輝ける人」なんだとか。直感でわかるところがおもしろい。

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