
重症の小児患者をドクタージェットで安全に搬送するための仕組みづくりに医療関係者らが挑戦している。クラウドファンディングも始まった。AERA 2024年1月1-8日合併号より。
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重篤な先天性心疾患や気管支疾患などで、生まれた直後に高度な医療技術のある病院へ運ばなければ助からない。事故など1分1秒が生死を分ける事態で、近隣には小児集中治療施設がなく長距離搬送が必要である。移植ドナーが出た際に、遠方の病院で待機しているレシピエントを移植施設へ移動させる──。
亡くなるケースも
こうした重症の小児患者を固定翼機(ドクタージェット)で安全に搬送する仕組みづくりに、医療関係者らが挑戦している。いま、日本でドクタージェットのシステムが存在するのは北海道だけで、本州以南をカバーする仕組みはない。陸送できないケースではドクターヘリを用いたり、民間機や航空自衛隊航空機動衛生隊に搬送を依頼したりして対応しているが、課題が多いという。ジェット機搬送の仕組みづくりを目指すNPO法人日本重症患者ジェット機搬送ネットワーク(JCCN)理事長の福嶌教偉(ふくしまのりひで)さんは言う。
「特に小児は集中治療施設の集約化が進み、施設ごとの得意分野も異なります。県域を越えて長距離搬送しなければ助けられないケースは多くあります。ドクターヘリは近隣への搬送を想定した仕組みで航続距離が短く、天候や振動の影響もあって重症患者の長距離移送には適しません。自衛隊機や民間機での搬送例もありますが、調整が難しく実現しないこともあります。ドクタージェットによる搬送の仕組みづくりは喫緊の課題です」
搬送に至らず亡くなるケースがどれだけあるのかは実態の把握が難しい。ただ、小児集中治療のデータなどからある程度の推計が可能だ。2016年度の人口統計などをもとにした日本集中治療医学会の推計では、年間の重症小児救急患者は約1万100例。一方、17年度に小児集中治療室(PICU)で治療を受けた救急患者は4900例だった。また、重症小児救急患者の死亡率は全体で約5%、PICU搬送例では約2%とされる。福嶌さんによると、年間100~150例程度の小児がPICUに搬送できていれば助かった可能性があるという。
国策として予算化を
小児臓器移植の現場でも航空搬送システムは待ち望まれる。福嶌さんは国内での移植実現に道を拓いた立役者で、22年に臨床現場から退くまで、長年心臓移植医療の第一線で活動した。