当初は「詐欺」をするつもりがなかったAさんなのに、なぜずるずるとフィリピンに居続けたのか。
「悪いこととわかっていながら、他の日本人と変な連帯感が出てしまう。一方で、小島(智信)なんかはヤクザそのものみたいな感じで、『日本に戻ってもヤクザの知り合いがいる。受け子や詐欺もそいつらが協力している。わかっているだろうな』と何度も脅された。小島やヤクザ風の監視役に口ごたえして、殴られて血まみれになったかけ子もいました。私は彼らが日本でヤクザとつながっていると怖かった。日本の警察の取り調べでも、ヤクザの名前を知らないかと追及されました」
日本で罪を償ったAさんだが、狛江市の強盗殺人事件が大きく報じられる前から、渡辺容疑者らが動いているのではと感じていたという。
「かけ子をしていると、銀行に預けずに現金を家に保管している人がわりと多いことがわかった。当時はシマダといっていた渡辺や、サイトウといっていた小島らがそれを知って、『グループで襲って奪えばいい』と話していたのを聞いたことがあります。また、当時一緒にフィリピンにいたかけ子はみな日本で逮捕されたのですが、警察から再度事情を聴きたいと連絡が入っているので、やっぱりなと思っていた」
Aさんはこんな思い出も話した。
「渡辺はふだんは拠点の廃ホテルにいない。たまに来て、大きな金額をだまし取ると、『成功したぞ』などとファーストフードで買ってきた食べ物をふるまってくれることがあった。渡辺や奥さんと思われる女性が、日本料理をたくさん持ってきてくれて、それがうまかったこともあって、わりと慕われていました。よく、カジノで勝ったとか負けたとか、そんなことも言っていました。『俺のようにカジノで大きな勝負をしたけりゃ頑張れ』と言われたこともありましたね」
渡辺容疑者は、2019年11月の摘発は逃れたが、2021年5月にマニラのカジノが併設された高級ホテルに滞在しているところを逮捕された。