話していて相手が疑いを持っていなさそうだとわかると、キャリアが長い「2線」のかけ子が、「私が担当課の〇〇です」などと引き継ぐ。
言葉巧みに相手を信用させ、預金通帳を手元に持ってこさせるなどして、残高などを聞き出す。時間を稼ぎながら、次に「3線」の担当者が、「受け子」をまとめる日本側の組織に連絡して、相手の家に向かわせるのだという。
会社の仕事のように、詐欺は規律のもとに行われていた。
「日本とフィリピンの時差は1時間なので朝は7時くらいには起床、7時半に朝礼があり、『今週は2000万円』などとノルマや目標が言い渡される。それから名簿を使って電話をかけていく。だいたい夕方5時、日本時間で6時には終わって夕食でした。2階に食堂があって、食事は上手な人が日本食を自炊してくれていた。中には数人、女性のかけ子もいましたよ」
週末には、名簿に「一人暮らし」とされている人でも家族が来たりするので、あまり「仕事」はなかった。金融庁だとか税務署の職員を名乗るマニュアルもあり、週末は休みだから怪しまれるという理由もあったという。
Aさんは詐欺の成果がうまくあげられなかったと振り返る。
「私はしゃべりが下手で、田舎の方言のなまりが出たりする。相手からうまく聞き出せても、預金が100万円ほどしかないなど資産が少ない人は、監視役から『流すわ』といわれて、適当にごまかして電話を切ったこともある。話がうまくいって、預金が300万円以上あるという相手もいたが、いきなり電話先に別の男性が出てきて、『お前ら何聞いているだ』とすごまれ、慌てて電話を切ったこともあった」
Aさんが「成立」と呼ばれる詐欺の結果を出したのは1、2回で、金額も少なかったという。かけ子がうまくいっても、受け子が失敗というケースもあったそうだ。
毎週金曜日に週払いで渡される給料とは別に、多額の現金をだましとることができればボーナスが出た。しかし、Aさんは月に30万円ほどの報酬だった。それでもあまりカネを使う事がないので、それなりにたまったという。