叶井 実際、抗がん剤治療しなかったオレが、1年半も生きてるからね。何がよかったかはわからないんだけどさ。
倉田 結局、治療って「どう解釈するか」だなって思うんです。「抗がん剤のダメージがなかったから長生きできた」と解釈することもできるし、「抗がん剤を使ったらもっと生きられた」と思う人もいます。
叶井 いろんな人がいろいろ言うよ。抗がん剤はやるべきだとか、そんなに苦しくないとか。
倉田 それを信じるのも、信じないのも自由。私たちは信じないことにした、ってことです。
叶井 オレは、がんとは闘わない。共存して、そのうち殺されるなら仕方がない。
家族が普通に暮らしてる それが一番ありがたい
倉田 それでも、今年の夏までの1年間は本当にいままで通り暮らしていました。でも、がんが大きくなったせいで胃が圧迫されて食べられなくなっちゃって、2023年の7月に胃と小腸をつなぐバイパス手術をしたんです。それで5~6キロやせちゃった。
叶井 手術しないで点滴で栄養を入れる方法もあるけど、食べられないのはイヤだからな。
倉田 しかも、9月に胆管のステントを入れ替える手術をしたら、さらに10キロくらいやせたよね。
叶井 あれは最悪だった。内視鏡手術がうまくいかなくて、激痛で寝られないし、痛み止めを打っても効かない。地獄の痛みだよ。「もう死なせろ!」って首にコード巻きつけて暴れた。
倉田 おかげですぐに別の先生に再手術してもらえて、ケロッとよくなったよね。やっぱり耐えるだけじゃダメだね。
叶井 でもオレはもう懲りた。二度と入院はしない。ホスピスも嫌だ。やるなら在宅医療。いや、もう早く死にたい。死なせてほしいよ。
――何がつらいんですか?
叶井 うーん、食べたいものが食べられないことだな。肉が食べたい。ラーメンもカツカレーも食べたい。すっごく食べたい。なのに、実際にはひと口も食べられないんだ。
倉田 ケーキとマグロの刺身で命をつないでいるんです。
叶井 そんなオレのわきで、妻と娘はニンニクたっぷりの焼肉食ってるんだ。拷問かよ。
倉田 あははは(笑)。
叶井 でもさ、家族が日常を普通に過ごしてくれているのが一番ありがたい。こっちの気持ちがラクになるからさ。
倉田 私も、あなたにはずっと変わらないでいてほしいな。気弱になると「ありがとう」とか言うでしょ(笑)。やめてね。
叶井 気弱なんじゃなくて、死ねなくて困ってんの。仕事でも「末期がんであと半年」って言って無理やり急がせてきたからさ、みんな内心「いつ死ぬの?」って思ってるよ(笑)。
倉田 12月公開の映画のエンドロールにも「叶井俊太郎に捧ぐ」って入れてもらったよね。
叶井 なのにまだ生きてる。ホント困るんだよなぁ。
(取材/文・神 素子)
※この取材は2023年11月中旬におこないました