叶井俊太郎(かない・しゅんたろう)/1967年東京都生まれ。映画のバイヤーとして2001年に「アメリ」(仏)を買い付け、大ヒットに。末期がんになってから15人の文化人と対談した著書『エンドロール!』(サイゾー)も話題。
撮影/東川哲也(写真映像部)

叶井 だってオレ、その瞬間に死ぬ覚悟したもん。「余命半年かぁ。さてどうしよう。今は6月だから、12月までに仕事が全部終わるように前倒ししなくちゃな」って。なのに、1年半たってもまだ生きている。予定が狂って困ってるのよ。

倉田 もうずっとそんな感じ。私はこの1年、一生で一番泣いたのに。季節が変わるたびに「これが最後の夏か」「これが最後の正月か」って。去年の今ごろは「最後のおせち」って、黒豆買いながら泣いてたんだよ。

叶井 覚えてないなぁ。

倉田 でしょうね。あなたはのん気に「数の子も食いてえ!」って騒いでた(笑)。でもさ、本当に1回も泣いてないよね、信じられない。すごいよ。

――医師から提案された抗がん剤と手術という治療法は、選択しなかったんですね?

叶井 しない。だって抗がん剤治療で吐いたり髪の毛が抜けたりするの、イヤだもん。はげるって聞いた瞬間、治療しないって決めたんだ、オレは。

――髪の毛のほうが大事?

叶井 うん、大事。

倉田 普通は「髪の毛くらい」って思うかもしれませんよね。髪の毛が抜けても吐き続けてもがんばる人はたくさんいます。でも、この人はそうじゃない。そういう人がいてもいいと私も思うようになりました。

手術しても生存率2割 それをどう捉えるか

――セカンドオピニオンは受けたのですか?

倉田 7~8カ所回りました。でも、がん専門病院や大学病院で言われることは全部同じ。手術しても5年生存率は2割しかないって。つまりそれは、抗がん剤治療をして、それが効いて腫瘍が小さくなって、手術ができて、成功して、しかも本人に十分体力がある、っていう条件を全部クリアしてもなお、そのうち2割しか生きられないって意味なんです。勝負としてはあまりにも分が悪いと感じました。

叶井 残りは再発か転移で亡くなるんだよ。2割に賭ける気にはなれなかった。それなら、抗がん剤治療はせずにいけるところまで今まで通り仕事がしたいと思ったね。

倉田 もちろん少ない可能性に賭ける人がいるのもわかります。それも一つの選択だし、私たちのように拒否するのも選択だと思うんです。がん治療は一本道じゃない。自分たちが納得して、後悔なく決められたのなら、こんな選択があってもいいのかなと。

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治療は「どう解釈するか」