「1.0の世界の幸せの法則は王子様に見初められ、さまざまなしがらみから解放される、というものでした。嫁いだ先でまた別のしがらみに辿り着くわけですが、以前よりはマシだろうという期待がある。この背景には1920年代から50年代には結婚が家と家との間を移動するものであり、そこでの住環境がいまより豊かなものであってほしい、という望みがあったからです」
同時に男性キャラクターである王子様は、その望みを叶える単なるアイコンだったと荻上さんは指摘する。例えば「白雪姫」の王子は名前すらなく、「シンデレラ」のチャーミング王子もろくにセリフがない。今年話題になった実写映画「バービー」でバービーの“ボーイフレンド”であるケンが「ただのケン」だと自身の存在の意味を嘆くのと同じ、「男性としての記号的役割」だけを求められていたわけだ。
次にヒロイン像に大きな変化が起こったのは「リトル・マーメイド」(89年)だ。人魚姫のアリエルは父から求められる生き方を拒否し、自分が恋した相手と結ばれることを望み、王子の唇を自ら求めにいく。
アリエルの主体性
「2.0ではおしとやかで清楚で王子様を待つ受動的なヒロインではなく、活発で意志の強いヒロイン像が強調されてきました。『美女と野獣』(91年)のベルは読書家で、『アラジン』(92年)のジャスミンは宮殿を抜け出して町へ冒険に行く。さらに『王子とでなければ結婚できない』という法律を馬鹿げていると改正させもする。まさに2.0にふさわしいヒロインです」
「眠れる森の美女」から30年を経た変化の理由を荻上さんは分析する。
「ひとつには80年前後から、映画『エイリアン』(79年)など女性がファイターとして活躍する作品が出てきたこと。さらに現代ほどではありませんが、世界的にフェミニズムが浸透してきたこともあります。日本でも85年に男女雇用機会均等法が制定され、『働く女性』が普通になってきたことも関係しているでしょう」
ちなみにこの時代のアップデートは現在も続いている。実写版の「美女と野獣」(17年)でエマ・ワトソン演じるベルは、より主体性を持つ快活な女性として描かれる。
「アニメでは魔法が解けてからベルは野獣とキスをしますが、実写版ではキスをしてから魔法が解けるようになっている。この順番にすることで『見た目ではないのだ』という趣旨が強調されています」(荻上さん)
その後「ポカホンタス」(95年)、「ムーラン」(98年)を経て、ディズニーヒロインはやや低迷期に入っていく。その時期に生まれたのがピクサー作品だ。現在はディズニー傘下になっているピクサーのアニメーションはいま振り返っても実に進歩的だったと荻上さんは言う。