ジェニファーさんが最初に「ディズニーに救われた」のは幼少時代。近しい人を何人も亡くすというつらい経験をしたとき「バンビ」(1942年)に心を癒やされたという。さらに12歳ごろに両親が離婚。家はいつも散らかり、服にはシミがつき、ぽっちゃり体形だった彼女は学校で格好のイジメの標的になった。そんなときに出合ったのが「シンデレラ」(50年)だった。
「家に帰って毎日『シンデレラ』を観ていました。ひどいイジメを受けるシンデレラと自分を重ね、それでも闘い抜くというコンセプトの何かが、私を助けてくれました。人生でさまざまな困難にぶつかったとき、おとぎ話はそれにどう対処すべきかを教えてくれるものなのです」
その後「シュガー・ラッシュ」(2012年)の脚本担当メンバーとしてウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオに入社。大ヒット作「アナ雪」(13年)を生み出した。同作はディズニーヒロインの大きな転換点といえる。姉エルサと妹アナの姉妹愛を主軸に「ありのままで」いる自分を肯定すること、そして「王子様は実は思い描いた人ではなかった」「王子様と結ばれることが最上のエンディングではない」と提示したのだ。
「現代のアメリカで暮らす私が描くキャラクターにはやはり自分の人生経験や家族、友人の経験がにじんでくることはあります。実際、若いころは恋愛を美化しがちです。知り合ったばかりで『大好き!』と家族にも会わず冒険に飛び出してしまうなんて無茶はやっぱりやめたほうがいいですからね(笑)」
ヒロイン像の今昔
「白雪姫」(37年)からディズニーのヒロインはどう変化してきたのか。評論家で編集者の荻上チキさんは著書『ディズニープリンセスと幸せの法則』で、ディズニー作品がプリンセスの「夢」や「幸せ」をどのように描いてきたかを読み解いた。荻上さんは言う。
「ディズニー初期作品にみられる法則(コード)は、・プリンセスとプリンスが出会うと恋に落ちる、・真実のキスを交わすと呪いが解ける、・二人は末永く幸せに暮らしました、というものです。そしてディズニーはこれらを常にアップデートしようと試みてきました」
荻上さんは歴代ヒロインのアップデートを四つの時代に分けている。
まず1.0の世界からみていこう。「初期作品には、やはり『恋愛』が主軸にあった」と荻上さんは言う。