ピクサーの影響

「いまニューロダイバーシティー(神経多様性)という概念が知られるようになっています。ジェンダーに限らず、脳の違いによる個性を尊重しようという動きで、例えば世の中には朝型の人もいれば、夜型の人もいる。でも社会は朝型中心主義なので夜型は常に生きづらさを感じている。この問題は『朝起きるの、つらいよね』『そうそう』と当事者性を刺激されるため、理解されやすくもあります。これをいち早く描いていたのが『ファインディング・ニモ』(03年)なのです。ニモは生まれつき片方のヒレが小さく、ドリーは記憶に障害がある。こうした多様性を持つキャラクターをすでに生き生きと描き出していました」

「アナ雪」に至る伏線となったのもピクサーの「メリダとおそろしの森」(12年)だと荻上さんはみている。赤毛でアクティブなプリンセス・メリダは王子を求めず、最終的に物語は「母と娘、女性同士の和解」へと帰結する。そして「アナ雪」は姉妹の関係性と魔女であるエルサの生きづらさとの闘い、社会との共生という現代的なテーマを内包し、多くの共感を呼んだ。「アナ雪」以降、ディズニーヒロインは無理に恋愛をしなくもなった。ちなみに荻上さんの最近のおすすめは、“推し萌え”なヒロインを描く「私ときどきレッサーパンダ」(22年、ピクサー作品)とエマ・ストーン主演の実写版「クルエラ」(21年)。ともにディズニープラス配信で視聴可能だ。

アップデートの意味

 最新作「ウィッシュ」にはヒロイン・アーシャの友人として松葉杖でメガネをかけた少女や「存在感の薄い」少女が登場する。こうしたヒロインや登場人物の描写について荻上さんは、「必ずしもこういう時代だからこういうヒロインを」ということではない、と考えている。

「クリエーターはいままでにない描写を求める生き物です。姿形や人種を含めこれまでに描かれてこなかったキャラクターを描くことに彼らは喜びを感じるのだと思います。また労働環境の多様性も大きい。女性の監督やクリエーターが活躍し、多人種によるスタッフが集まるなかで、彼らは自然と『自分のようなキャラクター』を生み出しているのでしょう」

 前出のジェニファーさんも言う。

「いつの時代もクリエーターの思いは同じです。それは新しいものを生み出す、ということ。ウォルト・ディズニーは『ストーリーテラーは進化し続けなければならない』と言いました。それが私たちの基盤にあります。クラシックな作品をリスペクトしつつ、これまでに描かれたことのないような新しい物語を作っていかなければならない。そうすることでレガシーはまた次の世代に引き継がれていくのだと思います」

(フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2023年12月18日号

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