「ただし、自分名義の預貯金や不動産など『遺産分割』の対象になる財産と、生命保険や死亡退職金など受取人がすでに決められている『相続財産ではないもの』を混同せず、分けて考えるよう注意が必要です」
3番目は、医療情報だ。自分の過去の病歴や現在の投薬状況、かかりつけ医は誰かなどを、周囲の人にわかるようにしておく。
また、50代ともなれば急な入院も想定しておかなければならない。そんなときに下着や基礎化粧品、最低限の現金、保険証などをすぐ持参できるように「入院セット」としてまとめておくことも考えたい。
「医療や介護については、延命治療の希望や、介護が必要になったときに入る施設など『先々決めるべきこと』は多々あります。ただ50歳くらいだとまだイメージするのは難しいでしょう。まずは、たとえば尊厳死宣言書のことなど『どんな選択肢があるのかを理解する』ことから始めるのがいいと思います」
まずは「ヒト、カネ、医療情報」の整理から。重要なのは、これらをノートに書くことだと山田さんは言う。「エンディングノート」と呼ばれるものだ。
「書くことでしなければならないことが可視化され、そこに気づきがある。エンディングノートとは、終活の手引きなんです」
50歳からの終活には別の利点もある。50代ともなれば、「親の終活」も気になる年頃だ。しかし親にいきなり「死んだときのことを心配してよ」と言うのも気分を害されそうで難しいところ。さて、どうするか。
「まず、自分が終活をやることです。『これは大変だ』『こういうこと聞かれると嫌だな』などを知ったうえで、『私も終活やってるんだけど、お父さんは?』と説得するのがポイントです」
親との信頼関係を構築
加えて、「まずは、親の昔話をゆっくり聞くことから始めてください」と山田さんは言う。
「いきなり、『財産どれくらいあるの?』とは聞けないですよね。私も、親とは仲がいいつもりですがすべてを見せてもらうまでに2、3年かかりました。親子でも、『あ、この子は信頼できるな』という関係をあらためて築き、自分の終活でその必要性や難しさを実感した上で、親の人生のために『終活は力になるはず』と伝えていけば、少しずつうまくいくかなと思います」
もう一つ、忘れてはならない点がある。終活には「死を見すえた準備」以外にもっと広い意味があるということ。山田さんの終活の定義は、「人生の最期の時を意識しながら、これからの人生を自分らしく生きるための準備をし、亡くなった後に備えること」だ。
「人生の終わりを意識しながらも、『いま生きていること』を大事にする。自分らしく生きるとは、楽しむことですよね。年をとってしまったらできないこと、たとえば行きたかった旅行に行く、食べたかったものを食べる。そんなことも終活なんです」
(編集部・小長光哲郎)
※AERA 2023年12月18日号より抜粋