都内で撮影されたツキノワグマ=東京都自然保護課提供

 市街地へのクマの出没が相次ぎ、人的被害も過去最多に上った今年。12月7日には東京・八王子市の市役所近くで目撃され、住民を震撼させた。人の生活圏に来るクマが増えている理由について、「山にエサがない」「すみかを人間に奪われている」などと言われているが、むしろクマにとって「住みやすい環境」が増えていると、森林の専門家は指摘する。そしてクマはさらに街に近づき、やがて緑の多い大都市圏にも出没するようになると予測する。

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 環境省の統計によると、1980年代のクマによる人的被害は多い年でも20人前後だった。しかし、2000年代に入ると被害は急増し、少ない年で50人前後、多い年は150人前後になっている。

「90年代までは、クマも含めた野生動物を山中で見ることはほとんどありませんでした。動物たちの足跡を見つけるだけで感動するほどでした」

 3年前に『獣害列島』(イースト・プレス)を出版した、森林ジャーナリストの田中淳夫さんは、こう証言する。

 59年生まれの田中さんは大学時代、ツキノワグマの冬眠穴を調査した経験がある。当時、クマは「幻の存在」だった。ところが、90年代に入ると、林業関係者から「クマが増えている」という話を聞くようになった。

「最初は半信半疑でした。クマが増える要素なんて、ないと思っていましたから」

 クマは、その体を維持するために大量のエサを必要とする。国内の山林は戦後、スギやヒノキを盛んに植えた結果、クマのエサとなるドングリが実る広葉樹が減ることになった。

 仮に産まれる子どもの数が増えたとしてもエサが不足するため、生き残れる個体数は自然と「抑制」されるはずだ。

「森を人工林ばかりにしたら、クマのエサがなくなってしまう、人間がクマのすみかを奪っていると思い込んでいました」
 

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「砂漠」ではなかった人工林